ソフトバンク事業戦略

ソフトバンク事業戦略「通信事業者の枠を超えた「Beyond Carrier」へ」宮内 謙

次の成長ステージへ向け、通信事業の顧客基盤を拡大

現在、ソフトバンク(株)は単なる通信事業者から脱却し、「Beyond Carrier」への転換を急いでいます。これは中長期的に持続的な成長を実現させるために描いた戦略で、通信事業の顧客基盤を拡大しつつ、その広範な基盤を生かしてサービス・コンテンツや隣接領域に事業を広げていこうというものです。

通信事業では、向こう5年、10年を見据え、2016年度と2017年度を顧客基盤拡大のための先行投資期間と位置づけ、“ソフトバンク” “ワイモバイル”の両スマートフォンと光ブロードバンドサービス「SoftBank光」の3ブランドを組み合わせた積極的な拡販に取り組んできました。スマートフォンと「SoftBank光」のセット割「おうち割 光セット」や、大容量データプラン「ギガモンスター」で攻勢をかけた結果、通信料割引などの影響でセグメント利益は前年度比5.1%減の6,830億円となりましたが、狙いどおり顧客基盤を着実に拡大させることができました。この1年間で、スマートフォン純増契約数は169万件、「SoftBank光」純増契約数は138万件とそれぞれ順調に推移しました。

スマートフォンではメインブランドの“ソフトバンク”と低価格のサブブランド“ワイモバイル”のいずれも着実に契約数を増やしています。最初の1、2年は手探りの側面もあった両ブランドのポジショニングが明確になり、顧客のニーズを正確に捉えることができた結果です。“ソフトバンク”は大容量データプランと最新の端末で思う存分スマートフォンを楽しみたい顧客をターゲットとしています。得られるバリューが大きければ、月額8,000円ほどのコストであっても価値に十分見合うと顧客に感じてもらえるはずです。もちろんそうしたニーズが全てではありません。月々の費用を抑えつつ、少し前の世代の端末でメールやSNSだけ利用したいという顧客には、“ワイモバイル”が最適な選択肢となります。このように両ブランドのポジショニングが明確になったため、両ブランドの競合を従来ほど心配する必要もありません。その一例として、同一店舗内で両ブランドを取り扱うと、低価格の“ワイモバイル”ばかりに客足が向くのではないかと以前は心配していましたが、現在では“ワイモバイル”を目当てに来店した顧客が、店頭で両ブランドを比べて“ソフトバンク”を選択することも珍しくありません。ダブルブランドショップについては、2017年度末時点で、すでに1,000店舗以上展開しています。

顧客基盤拡大への先行投資

顧客基盤拡大への先行投資

顧客基盤拡大のためのもう一つの取り組みとして、ヤフーとの連携強化を進めています。「Yahoo!ショッピング」で買い物をした際に付与されるポイントが10倍になるキャンペーンや「Yahoo!プレミアム」の実質無料化など、“ソフトバンク”と“ワイモバイル”ユーザーを対象としたさまざまな特典は、両ブランドが提供するサービスの価値を高め、特に顧客の囲い込みで大きな効果をもたらしています。

これらの先行投資によって顧客基盤は着実に拡大した上に、右肩下がりだったARPUも下げ幅が小さくなってきたことから、2018年度は増収増益を見込んでいます。

IoT時代のための5Gネットワーク

顧客基盤の拡大と併せて、IoT(モノのインターネット)時代の到来に備えたネットワークの強化にも取り組んでいます。その核となるのは次世代の移動通信システムである5Gです。5Gのサービス開始は2020年頃を予定していますが、2018年4月にはIoT機器向けに低価格かつ省電力な通信サービス「NB-IoT(ナローバンドIoT)」の商用サービスを開始したほか、プレ5Gサービス用として3.4GHz周波数の割り当てを受けるなど、着実に準備をすすめています。

5Gネットワークを構築するために設備投資が再び膨らむのではないかという懸念の声が聞かれますが、5G関連の投資を含めても現在の年間4,000億円以下の水準を維持できると見込んでいます。すでにソフトバンク(株)は、たくさんの基地局、特に半径数百メートルをカバーするスモールセルを数多く有しており、一番お金のかかるロケーションの確保や基地局の新規設置を大掛かりに行う必要がないことがその理由です。これは、当初プラチナバンドの周波数がなく、2.1GHzをメインバンドとして基地局の展開を行っていたことに加え、買収したイー・アクセスやウィルコムの基地局をそのまま活用できたおかげです。

IoTが本格的に普及するためには、5Gネットワークで無数のモノに埋め込まれる通信センサーを同時につなぎ合わせていくことになります。接続数は国内だけで100億を優に超えるでしょう。一つ一つの通信量は少なく、通信コストも非常に安価ですが、数や成長性、そして関連サービスへの拡張性を考えれば、ソフトバンク(株)にとって大きなビジネスチャンスにつながると期待しています。

新事業の種まき

冒頭にお話ししたように、ソフトバンク(株)は、通信事業の顧客基盤を拡充しつつ、その広範な基盤を生かしてサービス・コンテンツや隣接領域に事業を広げ、持続的な成長を目指す「Beyond Carrier」戦略に取り組んでいます。その中で2017年度は隣接領域で新事業の種まきも数多く行いました。ソフトバンク・ビジョン・ファンドとデルタ・ファンドの投資先が持つ世界最先端のビジネスモデルの中で、日本市場に合いそうなものを持ち込み、ソフトバンク(株)の顧客基盤や人材を活用して展開を進めています。例えば米国のWeWorkとはジョイントベンチャーを設立し、東京の六本木や銀座などですでに5カ所(2018年7月末現在)のワーキングスペースをオープンさせ、さらに8月にはもう1ヶ所オープンを予定しています。ファンドの投資先以外でも中国のアリババ(ソフトバンクグループ(株)の投資先)や米国のサイバーリーズン(ソフトバンク(株)の投資先)と、それぞれジョイントベンチャーを設立し、クラウドサービスやサイバーセキュリティーサービスを提供しています。

また、日本だけではなく、中国をはじめとするアジアでも同様にこうした新事業を共同で展開することを検討しています。世界で多くの人々を引きつけ、勢いのあるサービスをソフトバンク(株)の中に取り込むことにより、中長期の成長ドライバーにしていきたいと考えています。

構造改革で効率化を推進

これまで説明した成長戦略に加え、構造改革にも徹底的に取り組んでいます。中でも「Smart & Fun!」と称する働き方改革では大きな成果を上げることができました。2017年度から始まったこの取り組みは、単に残業時間を減らすのではなく、ITを活用してスマートに楽しく仕事に取り組むことをメインコンセプトに、AIやロボティクスを活用して業務の自動化や効率化を図り、生み出された時間を自己啓発などに有効活用するというものです。この1年間で、従業員一人当たりの平均月間残業時間を相応に短縮させることができただけでなく、業務プロセスの見直しをテーマに400以上ものプロジェクトが現場主導で動き始めるなど、従業員の意識も着実に変わったと感じています。今後、ITを通じて、従業員一人一人の業務内容や発揮しているスキルなどを「見える化」させ、究極的な適材適所を実現することで、業務効率を根底から改善したいと考えています。また、現在導入している、定時退社Dayの設定、スーパーフレックス、部分的な在宅勤務といった仕組みが一定の成果を上げていますが、将来的には、完全な在宅勤務など、場所を問わないフレキシブルな業務環境も作り込んでいく計画です。

大きな転機を迎えるソフトバンク

ソフトバンクグループは、買収を繰り返しながら、通信事業をゼロから作り上げてきました。どの企業の出身かは関係なく、多様な価値観の中で、今、明日、将来、何ができるかが問われ、過去のキャリアに関係なく、一丸となって課題に取り組んできたのです。ソフトバンク(株)が身を置く通信・情報産業は、変化のスピードが驚くほど速く、その変化も強烈で、気を抜けばあっという間に潮目が変わってしまう世界です。常に最先端が求められるからこそ、過去にとらわれることなく、知恵を絞り出してきた企業文化が極めて重要なのです。また、自ら最先端のテクノロジーを使うからこそ、事業に説得力が生まれ、差別化にもつながります。大企業病の芽をガバナンスの工夫によって未然に防ぎながら、競争力の源泉ともいうべきソフトバンク(株)らしい企業文化を今後も大切にして、「Beyond Carrier」戦略を推進していきます。

ソフトバンクグループ(株)は「群戦略」の下で自らを戦略的持株会社へ転換するため、ソフトバンク(株)の上場準備を決定し、2018年7月9日に東京証券取引所に上場予備申請を行いました。仮に上場することになれば、ソフトバンク(株)はこれまで以上に自律的かつ独立的に経営を行っていくことになります。株主をはじめとするステークホルダーからの期待に応えるべく、他の上場会社と遜色なくガバナンス体制をきっちりと整え、掲げた目標の達成に一層こだわっていきます。

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