リップブー・タン
ソフトバンクグループ株式会社
社外取締役、独立役員
当社社外取締役リップブー・タン氏の退任にあたってのメッセージ
2022年5月24日発表の「取締役人事に関するお知らせ」の通り、リップブー・タン氏が2022年6月24日に当社社外取締役を退任する予定です。同氏からの退任にあたってのメッセージを次の通り掲載いたします。
厳しい事業環境下でもさらなる成功を
実現するために
リップブー・タン氏は、1987年にWalden International(以下「Walden」)を創業以来、テクノロジー分野への投資において豊富な経験を有し、2020年6月にソフトバンクグループの社外取締役に就任(2022年6月24日に退任予定)。同氏はまた、電子設計ツールを提供するCadence Design Systems(以下「Cadence」)のCEOを2008年より務めた後、同社の取締役会議長に就任しています。
多様な視点から活発に議論が行われる取締役会
今回、ソフトバンクグループの取締役を退任するにあたり、私が務めた2年間を基に、取締役会がどう機能しているかをお話ししたいと思います。
この2年間、ほとんどの取締役会が対面ではなくオンラインで開催されました。そのような環境下でも、取締役は最善を尽くしてきたと思います。ソフトバンクグループの取締役会では双方向的で建設的な議論が行われており、取締役はそれぞれ積極的に質問を挙げます。すべての取締役が活発に意見を述べることができるよう取締役会は慎重に運営され、明確な論旨で理解しやすい説明がなされるよう図られています。だからこそ、取締役会として統一した見解の元で決議がなされているのです。
取締役会の機能の一つに、マサ(当社代表取締役 孫 正義)をはじめとする経営陣を監督し、指導や助言を行うことがあります。マサと同じように個別の投資案件に関する意思決定を行うというより、取締役は会社としての方針や全体的なガバナンス、財務運営や戦略的な方向付けに重きを置いています。取締役会の役割は明確です。マサら経営陣が日々の企業運営にあたる一方で、取締役会は、経営執行が正しく行われるよう計らい、戦略や一部の財務に関する議論に加わり、決議を行います。取締役会は、株主価値を保護し、利益相反への対処を徹底させる責任を負っているのです。現在の取締役会のメンバーは全員、積極的に発言しており、十分納得がいくまで、多様な視点・アプローチから多くの質問を投げかけています。必要な情報が経営陣から提供されていることを確認した上でないと、取締役会としての意思決定はできないのです。
環境変化に対応するソフトバンクグループの取り組み
外部環境に目を向けると、ソフトバンクグループに限らず、すべての企業が厳しい世界情勢に直面しています。ロシア・ウクライナ情勢の影響でサプライチェーンに大きな問題を抱える企業もある一方で、ソフトバンクグループは直接的な影響はないものの、投資会社としては、米中関係の悪化やインフレ、金利上昇、IPO市場の減速などの課題に直面しています。
このような環境下で、ソフトバンクグループは投資会社として、キャッシュ・フローと手元流動性を慎重に管理しなければなりません。借入による調達資金を投資に充当しているので、金利の上昇やIPO市場の低迷には特に細心の注意を払う必要があります。現在、取締役会は新規投資にはより慎重になっており、投資ペースの減速を検討しています。適正な範囲で負債を管理し、利払いや元本返済を確実なものにする必要があります。これまで、後藤さん(当社取締役CFO 後藤 芳光)たちは難局をうまく乗り越えてきました。私が退任した後も、取締役会は注意深くモニタリングしていってほしいと思います。
個別の投資の意思決定は取締役会の役割ではないものの、私自身は、Waldenで培った知見を生かした監督をすることができました。ディスラプティブテクノロジー(破壊的技術)には個人的に強気のスタンスで、Waldenが重点的に投資を行っているAI、機械学習、計算生物学、創薬、暗号技術は、良い投資分野だと考えています。しかし、投資のエントリーポイントにおけるバリュエーションに大きな変化が起きていることに留意しなければなりません。株式市場が下降圧力にさらされているときに、高すぎるバリュエーションに基づいて投資をしたい人はいないはずです。
ソフトバンク・ビジョン・ファンド(以下「SVF」)に関して言うと、SVF1は約1,000億米ドルの出資コミットメントを持つ大規模なファンドです。投資先1社あたりの投資額は大きくなりがちである一方、それだけの規模で投資できる魅力的な投資機会の数には限りがあります。多くの学びがありました。一方、SVF2は、よりアーリーステージの企業に特化しているほか、ポートフォリオの多様化も進んでいます。これはある意味ポジティブなことではありますが、私たちだけが特別な存在ではありません。同じような戦略をとるベンチャーキャピタルやヘッジファンドはたくさんあります。だからこそ、ソフトバンクグループは投資の目利き力をさらに高めていく必要がありますし、資金以外にも提供できる価値を示すことで差別化を図っていかなければなりません。
優秀な人材の確保が成功へのカギ
投資事業の成功の要は、優秀な人材・有能なチームを確保することです。優れたベンチャーキャピタルの離職率が非常に低いのは、「レインメーカー」と呼ばれる、有能なディールメーカーを確保することの重要性を理解しているからです。投資は、人材に大きく依存する事業です。誰もホームランバッターに辞めてほしくはありません。人材の大切さについては、マサとよく意見交換をしてきました。マサは、チーム文化を構築し、全員が協調して働くことの重要性を理解しています。これは、ソフトバンクグループにとって、継続的に取り組んでいくべき課題です。
また、チームが努力の成果を享受できるようなインセンティブを得られるようにすることも重要です。Waldenなどの典型的なプライベートエクイティ・ファンドは20%の成功報酬がスタンダードですが、ソフトバンクグループにはそのような仕組みはありません。そこでマサは、ソフトバンクグループにふさわしいインセンティブスキームとして、共同出資プログラムの導入を提案したのです。投資業界でもユニークな仕組みですが、そもそもソフトバンクグループ自体がユニークなのです。ここで強調したいのは、このプログラムは、マサをはじめとする経営陣が、成功するために適切なリスクをとることを促し、適切なインセンティブを与えるものだということです。取締役会は、利益相反が適切に対処されるよう、長い時間を費やして議案の審議を行いました。例えば、このプログラムは、価値向上の余地がある成熟度の低い投資を対象とすべきという理由から、上場投資先は対象外としました。こうすることで、ソフトバンクグループの株主にとっての公平性を担保したのです。徹底的な検証を通じてチェリーピックが行われない、会社との間で利益の齟齬が生じないプログラムであり、利益相反が適切に対処されていることを確認した上で、取締役会は本プログラムを承認したのです。
グローバル企業としてサステナビリティ経営を進める
サステナビリティとガバナンスは、世界中の上場企業にとってますます重要なテーマとなっています。人種・民族やジェンダーが異なる多様な人材の雇用を進めるなど、ESGを重視する姿勢が強まっています。気候変動に対応するテクノロジーへの投資も重要な領域の一つになりつつあり、ロシア・ウクライナ情勢を機に多くの業界が太陽光や風力などの代替エネルギーに目を向けるようになりました。
ソフトバンクグループはこの領域で模範となるべきです。ソフトバンクグループの投資戦略にはすでに、電気自動車をはじめとする気候変動に対応したテクノロジーへの注力が含まれていますが、最も重要なのは、単に見栄えの良い報告書を作成することではなく、実質的かつ非常に大きな変革を起こすことです。あとは行動そのものが物語ってくれるでしょう。ソフトバンクグループは、投資先企業と取り組むことで、さらに積極的に気候変動対策に取り組めるはずです。そして、その努力や実績を目に見える形で示す必要があります。こうした取り組みは、日本やアジア・太平洋地域における模範事例になっていくと思います。
取締役会を継続的に最適化
私が在任していた2年間で、ソフトバンクグループは、取締役会のバランスと多様性を改善し、コーポレート・ガバナンスの強化を着実に進めてきたと思います。しかし、今後も取締役会の最適化は続けていく必要があります。マサは卓越したビジョナリーですが、マサに対して安全策を講じ、助言を行い、さらなる成功へと導く存在が必要です。性急に下した選択は、会社に不利益をもたらしかねません。だからこそ、取締役会や監査役会に適切な人材を迎えることが不可欠です。テクノロジーの投資会社としては、市場やテクノロジーの最新トレンドに精通した人材はきっと助けになることでしょう。
多様性の向上も継続的な課題です。ソフトバンクグループは日本企業であると同時にグローバル企業です。女性、外国籍、多様な業界の出身者を取締役に登用し、今以上にダイバーシティに富んだ取締役会構成にするべきと考えます。この点で、取締役会は進化を続けています。マサはとても柔軟な考え方の持ち主ですし、ソフトバンクグループは正しい方向に進んでいます。
サクセッションプランは重要な課題
後継者の育成は取締役会における最も重要な責務の一つです。継続的な取り組みが必要であり、一夜にして実現できるものではありません。理想的なのは、企業カルチャーを維持するためにも内部人材を昇進させることでしょう。マサは現在60代半ばで私とほぼ同じ年齢であり、後継者の育成は急ぐ必要はありませんが、取り組まなければならない課題です。
私自身、Cadenceで自分の後継者を採用することから始めて、ちょうどバトンを渡したばかりです。Cadenceの取締役会に招き入れ、メンタリングやコーチングを行いながら育て、最終的には、私の立場や会社の戦略を引き継ぐには彼が最適であると、取締役会と意見が一致したのです。経営体制の移行には顧客や主要株主にも納得いただく必要があります。彼らが重視するのは継続性です。株主に対して継続性を示すために、私は取締役会議長として留まっています。このように、移行には時間がかかります。ですから、後継者を特定し、その人物が会社を継続できるよう育成していくことが重要です。加えて、顧客や株主だけでなく、株主ではない方々も安心できる形でバトンを渡さなければなりません。
マサも後継者の育成を考える必要があります。マサはリーダーシップを発揮し続けると思いますが、日々の経営の多くは彼のNo.2が進めても良いでしょう。マサはまだ若く、あと数年の猶予はありますが、その数年の間に、この課題にきちんと対処していく必要があります。
私たちは皆、ソフトバンクグループがますます成功を遂げていく姿を見たいと思っています。私が退任した後も、取締役会はさらなる成功を成し遂げるためにマサを後押しし、安全策を講じ、適切な助言を続けていくはずです。彼は類いまれなビジョナリーです。私たちはいつもマサの力になりたいと思っていますし、それはマサもよくわかっていると思います。
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