Tempus

Tempusは、データとAIを医療に応用する企業です。Tempusのミッションは、患者が、適切な薬を適切なタイミングで使用できるよう支援し、より健康で長生きできるようにすることです。2015年に米国で設立されたTempusは、現在、世界最大規模のがん患者のDNAシーケンシングを行う企業の1つとなりました。オンコロジー（腫瘍学）のためのプラットフォームを構築し、神経精神医学、心臓病学、感染症学、放射線医学へと領域を拡大してきました。

2024年6月、ソフトバンクグループ株式会社は、Tempusとのジョイントベンチャー「株式会社SB TEMPUS」を設立することを発表しました。個別化医療を支援するサービスを国内で提供することを目指し、SB TEMPUSは同年8月に本格稼働を開始しました。

CEOのEric Lefkofsky氏が、起業した理由、個別化医療の力、そして私たちが知っている医療をAIがどれくらいのスピードで変革していくのかについて語ります。

なぜTempusを設立したのですか？

約9年前、妻が乳がんと診断されたことをきっかけにTempusを設立しました。私は、妻の治療に医療データがほとんど使用されておらず、がん患者の治療にテクノロジーがほとんど活用されていないことに困惑しました。

当時、DNAシーケンシングという新しいデータ手法が注目を集め始めていました。米国では、ますます多くのがん患者がシーケンス解析を受け、がんを進行させている分子的な要因を特定しようとしていました。しかし、医師はその解析結果を解釈し、理解するのに苦労していたのです。

もし、その解析結果を患者の臨床データ、つまりその患者が誰で、どんな薬を服用しており、どんな反応を示しているかに結びつけることができたら？機械学習やAIの利点を臨床診断支援プロセスに取り入れることができないだろうか？

これが私たちの取り組みです。

どのようにアプローチしましたか？

私たちは、臨床データを抽出して構造化し、それを理解できるようにするシステムを構築しました。その後、患者のDNAをシーケンシングするためのラボを設立し、両者を統合する作業を始めました。 その結果、私たちの検査はよりスマートで、より包括的で、医師にとって解釈しやすいものになりました。これにより、大規模に検査の依頼を受けるようになり、Tempusは大きく成長しました。

医療エコシステムの中でのTempusの現在の役割は何ですか？

Tempusの事業は2つの分野にまたがっています。まず、AIやビッグデータ、機械学習といった最新テクノロジーを用いて診断をよりスマートにする事業を行っています。

その結果、膨大な量のデータを生成します。そして、これらのデータセットの個人情報を非識別化し、研究者や製薬関係者に提供しています。これにより、彼らができるだけ効率的に薬を開発できるようにしています。

現在、Tempusの事業の大部分はオンコロジー分野で、主に2つのプロダクトがあります。1つは、がん患者のDNAシーケンシングを行うゲノミクスプロダクトで、もう1つはデータプロダクトです。

米国には、大規模にシーケンシングを行う企業が4、5社ありますが、Tempusと同等のデータ量や、製薬会社、バイオテクノロジー企業を支援するツールを持っている企業は実際には存在しません。

Tempusの目標は何ですか？

私たちの目標は、医師が既に効果的だと知っている治療法に関して、新しい適用方法を見つけ出すことを支援し、その治療法が適用可能な患者を特定する技術を、世界中に展開することです。

具体例を挙げていただけますか？

例えば、重度のうつ病で大きな不安を感じ、薬を服用している患者がいるとしましょう。
その患者の臨床データを見て、過去2年間に4種類の抗うつ薬を服用していて、うつ病による不眠や体重増加などの重大な副作用が続いていると分かったとします。これは何かがうまくいっていないということですよね。この患者は、病態をコントロールする適切な抗うつ薬を見つけられていないのです。

次に、その患者のシーケンスを行い、ゲノムプロファイリングした結果、その患者がCYP2D6の代謝不良だと分かったとします。そして、その患者が服用している薬は、CYP2D6の代謝が悪い人には有効性が低いことが知られていると分かったとします。

この情報をその患者の主治医や精神科医に提供することで、データに基づくより適切な治療方針の決定ができるようになります。診断の最終的な目的は、その患者にとってより適切な治療法を見つけ出すことなのです。

過去9年間でどのような進展を遂げ、現在は何に重点を置いていますか？

過去9年間で、Tempusは2,500人規模のチームに成長しました。現在、世界最大規模のがん患者のDNAシーケンシングを行う企業の1つとなっています。

さらに重要なのは、医療エコシステムの人々に、豊富なマルチモーダルの医療データを統合して効果的で信頼できる方法があることを示し、医師によるデータの解釈を支援することです。これをすべて、患者が治療を受けている間にリアルタイムで行うことができます。現在、最も注力していることは、がんだけでなく、うつ病や心血管疾患、または未診断の希少疾患などの他の疾患領域でもこうした技術を進歩させることです。

これまでは米国に注力してきましたが、ソフトバンクグループ株式会社とのジョイントベンチャー設立を発表できたことを非常にうれしく思っています。ソフトバンクグループ株式会社は、Tempusが日本市場に参入するための最適なパートナーであり、日本市場は理想的です。日本は、個別化医療の分野で世界をリードできるはずです。日本には素晴らしい病院があり、非常に優れた人材がいます。AIがシステム全体に浸透する必要なツールを提供する支援ができれば、日本がこの分野で想像を超えるリーダーとなると信じています。今後に非常に期待しています。

医療制度における意識も変える必要があると思いますか？

医療制度は、遅くて古臭いとか、硬直的で規制が厳しすぎるとか、単に理解されていないのだとか、よく耳にすると思います。しかし、Tempusが事業を展開している領域において、Tempusの主要市場である米国の医師たちは、新しい技術やツールが患者を助けると確信すれば、非常に積極的に導入しようとしています。新しい技術、薬、治療法が採用されるためのハードルは非常に高いです。なぜなら、医師は日々多忙を極めており、たくさんの課題に直面しているからです。しかし、そのハードルを越えて本当の価値を示すことができれば、大規模に導入されると分かりました。

AIは将来、医療をどのように変えていくと思いますか？

AIの最初の目標は、理想的には、世界中のすべての患者が常に最適な治療を受けていることを保証することです。言い換えれば、ミスを犯さないということです。

現在、世界中で多くのミスが起こっています。正確な数は分かりませんが、膨大な数に上ります。ある推計によると、全患者の30％が誤った治療を受けているとされています。また、これらのミスは世界の治療費の半分を占めるとも言われています。

つまり、数兆ドルのお金と数千万人の死が関わっているのです。それはすべて、患者が適切な薬、適切な検査、適切な治療、適切な投与量を得ることができなかったということです。

AIの最初の目標は、その問題を解決することです。私は、予想よりも早く、恐らく今後10年以内に実現すると信じています。このことは世界の医療と経済に大きな影響を与えるでしょう。

治療そのものにも影響があるのでしょうか？

Tempusは、インテリジェント診断とがんに特化しており、その成果としてより良いがん治療薬を作るためのデータをライセンス提供しています。

同様に、AIが医療の領域に広がることで、より良い薬を開発するために活用できる膨大なデータが生成されるでしょう。

生成された新しいデータに基づいて、過去10年間でがん治療が劇的に進展したように、医療用AGI（人工汎用知能）が治療を本格的に加速させていくにつれて、あらゆる疾患領域においても同様の劇的な進展が見られるでしょう。

がん、心臓病、脳卒中などの多くの病気に苦しむ現在の状況から、これらをほぼ根絶する段階に進行するでしょう。それが50年かかるか、30年かかるかは分かりませんが、その期間内に医療は大きく変化するでしょう。

CEOとして最も誇りに思うことは何ですか？

誇りに思うことはたくさんあります。

Tempusは、年間何万人もの人が悲しい結末を迎えることを避けられるように支援しています。患者への影響だけでなく、がんのような恐ろしい病気や、何百万人を悩ませている心臓疾患や神経性疾患において、AIを大規模に導入する方法について誰よりも深く、責任をもって考えてきました。チームは、これらのソリューションの展開を推進するために日々努力を続けています。

Tempusはこの分野の先駆者です。他に真似できる存在はいません。Tempusは、自らの役割を定義し、革新し、熟考し、展開していかなければなりません。Tempusは、学び、方向転換し、進化し続ける必要があります。それによって、他の人たちが私たちに続くことができるようになるのです。

Tempusは、過去9年間で素晴らしい成果を達成しました。次の9年間でどのような成果を上げられるか、非常に楽しみにしています。

ソフトバンクグループ株式会社とTempusのジョイントベンチャーに関する詳細については、プレスリリース、プレゼンテーション資料、および記者説明会のアーカイブ動画をご覧ください。