一つ目の極意は「登る山を決めよ」です。登る山を間違えると大変なことになります。登った先に素晴らしい景色が待っているのか、それとも谷底につながる坂道を登っていくのか。つまり人生で何に志を立てるか、これで人生の半分は決まるというのが私の持論です。
二つ目の極意は「脳がちぎれるまで考えよ」です。私は米国の大学を卒業後、日本で事業を興すべく、どんな事業にするか、1年半かけて考え抜き、1981年に株式会社日本ソフトバンク(現ソフトバンク株式会社)を創業しました。ここにいる皆さんはこれから半年から1年かけて、入社する会社や、これからの人生について考えると思います。脳は考えれば考えるほど活性します。就職に限らず、人生の中で何を追い求めるにしても、脳がちぎれるほど考え抜くということは大切です。すぐに結果に結びつかなかったとしても、人生のどこかで必ず、考え抜いたアイデアや知恵が役立つときが来ます。ですから問題にぶつかっても集中し、挑戦し続けることが大事です。
三つ目の極意は「時代は追ってはならない、読んで仕掛けて待たねばならない」です。1990年代前半にインターネットが世界中に広がり、私はすぐにアメリカのシリコンバレーに乗り込み、創業したばかりのYahoo! Inc.に出資しました。そして「合弁会社を作ろう」と説得して、1996年に日本法人のヤフー株式会社を設立しました。しかし当時の日本の通信業界はNTTが事実上100%独占しており、「このままではインターネットの世界で日本だけが取り残されてしまう」と危機感を抱きました。私は政府に対し規制緩和を訴える一方、2001年に自らの手で高速インターネットサービス「Yahoo! BB」をスタートさせました。実は私にはパソコンの時代から、携帯電話の時代が確実にやって来ると確信がありました。しばらくしてソフトバンクは、約2兆円をかけてボーダフォン日本法人を買収しますが、2兆円集めることは本当に大変でした。しかし「やる」と決めたら何とかなるものです。とはいえこの買収は、当時世間からも揶揄されました。ところが、ソフトバンクの社外取締役で株式会社ファーストリテイリングの会長 兼 社長の柳井 正氏が「攻めるのに武器を買うか買わないかなんて話をしていたら闘えない。買えなかったときのリスクを考えるべきだ」と言ってくれたのです。その言葉が本当に大きな後押しになりました。時代は追いかけてはならない。次の時代に何が来るかということを先読みして仕掛け、そして時代が追いついてくるのを待つことが必要です。ソフトバンクの移動通信事業は、携帯電話会社を運営したいという目的ではなく、モバイルインターネットを提供するためにあるのです。世界中の人々がインターネットを通じて情報を分かち合う。これこそが「情報革命」だと思っています。
四つ目の極意は「志を共にするものを集めよ」です。革命的なことを成したいのであれば、志を共有する仲間が必要です。本当の仲間とは悪いときこそ支えてくれる人です。今から6年前のリーマンショックの影響で、ソフトバンクは潰れそうになりました。株価は真っ逆さま、時価総額は暴落。このときばかりは私もくじけそうになり、「上場を取りやめよう」と、当時財務を担当していた故笠井 和彦取締役に相談しました。すると笠井さんは「社長、われわれの夢を小さくしてしまって良いのですか?」と思いとどまらせてくれました。笠井さんのおかげでソフトバンクはその後、時価総額で国内第2位まで上り詰めることができ、見事に蘇ることができました。
そして、五つ目の極意は「険しき道でも義の道は利の道より尊し」です。つまり「利益」か「義」を選ばなければいけないときは、迷わず「義を選べ」ということです。2011年3月11日の東日本大震災。ソフトバンクの電波が一人でも多くの人に届いていたならば、救えた命もあったのではないかと胸が痛みました。われわれは震災以降、「絶対に接続率でNo.1になる」という強い執念で、ネットワークを増強してきました。それは「費用が掛かる」「難しい」ということではなく、ときには目先の利益を超えて、義の道を取らなければいけないからです。そして、未だ解決していない問題として原発問題があります。私自身、まだ答えが見つかっていませんが、せめてもの解決策の一つとして、ソフトバンクグループでは再生可能エネルギーの導入を目指し、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギー事業に取り組んでいます。