川本 裕子
ソフトバンクグループ株式会社
社外取締役、独立役員
当社社外取締役 川本 裕子氏の退任にあたってのメッセージ
本日発表の「取締役および監査役人事に関するお知らせ」のとおり、川本 裕子氏が2021年6月下旬に当社社外取締役を退任する予定です。同氏からの退任にあたってのメッセージを次のとおり掲載いたします。
孫さんの才能を企業価値に最大限結び付けられる
ガバナンスが重要
実態は外で見聞きしていた会社像と大違い
2020年6月にソフトバンクグループの社外取締役に就任することになったのは、よく一緒に仕事をしていた米国の弁護士の方経由で打診を受けたのがきっかけです。ちょうど、WeWorkの問題などで業績がかなり落ち込んでいた時でした。ソフトバンクグループに対する当時の認識は、日本で2番目に時価総額が大きく、進取の気性に富んでいて、日本では珍しくレバレッジを効かせて資本コストを引き下げてビジネスを進めている。一方で、ガバナンスにはいろいろと課題があると言われている、というものでした。ずっとガバナンスとファイナンスを専門としてきましたので、自分の知識や経験がお役に立てばと思い、孫さんとの面談を経てお引き受けすることになりました。
就任から1年ほど経ちましたが、外で見聞きしていた会社像と実態がこれほどかけ離れている会社も珍しいと感じています。創業期のベンチャーのような精神を失っておらず、スピード感やダイナミズムにあふれたワクワクする会社なのですが、それ故に時にはルールが後追いになるようなこともあり、外部からは欠陥があると見られてしまいがちです。しかし、実態はというと社員の皆さんが各分野のプロフェッショナルですので、インフラが必ずしも整っていなくても現場で工夫して何事もきちんと成し遂げてしまえる。また、数年前から日本でもSDGs(持続可能な開発目標)の機運がにわかに高まっていますが、孫さんはずっと以前から「300年成長する企業を目指す」と言っておられます。世間が追いついてきたという言い方もできると思うのですが、そういう打ち出しはしていません。世の中で常識とされていることやトレンドにとらわれずに我が道をひた走り、その上、シャイというか内弁慶というか、「説明しなくても、いつか世の中がわかってくれるだろう」という考え方なのかもしれません。せっかくの素晴らしい実態がうまく外部に伝わっていない面があるのは、とても残念なことです。
取締役会は、多様なバックグラウンドや国籍のメンバーで構成されており、女性取締役比率が11%ということを除けば、ダイバーシティが進んでいます。常に地球規模の視点で議論が進められる、真のグローバル企業です。社外取締役の主な役割は、執行サイドに気づきを与えることだと私は思っています。これまでの経験ですと、社外取締役は変革のカタリスト、といいますか、企業が進むべき方向性にあるかアラートを発し、望ましい変革をサポートして企業価値を高めていく役回りであったことが多いのですが、ソフトバンクグループの場合には、毎日絶え間ない変革を自ら起こしているので、「ルールは整備できていますか?」「枠組みに不備はないですか?」「内部の連携はとれていますか?」といった質問や提案を主にしてきました。私は大学院でコーポレートガバナンスの講義を持っているのですが、チェックすべき内容は確認できたと思います。旧来型の大企業と違って意思決定が敏速で、納得さえすればすぐ実行に移してくれるので、結果が目に見えてやりがいがあります。CRO(チーフ・リスク・オフィサー)の必要性を指摘したら、2カ月後には着任されるまで至ったスピード感は印象的でした。また、個別の投資については、社外取締役は必ずしも詳細な内容、経緯を熟知する立場にはないものの、孫さんや担当チームからの説明を受け、客観的な視点から納得できるまで質問を重ねることでチェック機能を果たす努力をしてきました。
課題は世の中の枠組みに合った形で説明責任を果たすこと
孫さんについては、世間やメディアで喧伝されている「人の意見を聞かない」「独断専行する」「首尾一貫していない」というイメージは私には随分違って見えます。実際にはこれほど人の話に耳を傾けるCEOは珍しいと思うほどです。取締役会では一つひとつの議案について必ず意見を求められるので、しっかり考えて自分の意見をきちんと持っていないと対峙できません。そうした姿勢は素晴らしいというかびっくりというか。また、いろいろな方の意見を聞いて方向転換すること、良い意味で朝令暮改することを全く厭いません。社外取締役の反対で方針を変えられたこともありましたし、反省を生かして今後の取組みを根本的に考え直す、というご決意もありました。次から次へとアイデアを出し、スピーディーに変化していくので、それがともすればリスク回避的な日本の通念とギャップを生んで外部から問題視されることもあります。ソフトバンクグループの展開を拝見していると、リスクをとってビジネスを推し進めるというのはどういうことか、本当に学ぶところが大きいです。
課題として挙げられるのは、やらんとしている方向性やスピード、アイデアやエネルギーは素晴らしいのだけれども、その判断を下す上で、ルールや制度などのチェックが間に合わないことがあることです。先ほど申し上げたように孫さんは社外取締役の意見を真摯に聞いてくれるのですが、並大抵ではないスピードなので、プロセスが簡略化されてしまう、といったことが時に起こる。そうすると外部への説明が足りない場合もある。内部でチェックする役割の人を増やすのも1つの方向性ですし、世の中のルールやスタンダード、他社の事例をきちんと調べることや、プロフェッショナルからセカンドオピニオン、サードオピニオンを聞くことも助けになるでしょう。ソフトバンクグループや孫さんに対して世間やメディアの関心は極めて高く、注目されるのは良いことですが、それは同時に誤解が生まれる可能性も高めます。
ソフトバンクグループに最適なガバナンスの仕組みを築いてほしい
人事院人事官※への就任に伴って1年でソフトバンクグループの社外取締役を退任しなければならないのは本当に残念ですし、もしアバター(自分の分身)があるなら続けたいという気持ちです。孫さんはとても刺激的な人で、周りの人の魂に火をつけるところがあります。私も孫さんからインスピレーションを受けたからこそ、新しいことに挑戦してみる勇気が出て、国の難しい役割をお引き受けすることにした気がしています。
ソフトバンクグループは、孫さんという天才がその才能をきちんと発揮して、企業価値に結び付けられるようなガバナンスの在り方を組み立てていくことが必要です。がんじがらめではない、神経の通った組織です。それは役員に限らず、社員一人ひとりの責任でもあります。常に「obligation to dissent」というか、必要な時には必ず異を唱える義務というのがソフトバンクグループ全体でもっともっと広がっていくと良いですね。取締役会では、コーポレートガバナンスコードの強化や投資家からの要請の動きの中で、そしてこの1年間、私が口うるさく言い続けたこともあったと思うのですが(笑)、社外取締役、監査役の皆さん含めて、これまで以上に率直に議論ができる空気が醸成されていると思います。孫さんはチャーミングだし、恐れることはありませんよ。役員、社員一人ひとりが企業価値を最大化するためのガバナンスを意識しながら、仕事をしていくことで、ソフトバンクグループらしい、よりよいガバナンスを練り上げていってほしいと思っています。ソフトバンクグループの将来的な最大の課題はサクセッションプラン(後継者育成計画)だと考えます。アップルやマイクロソフトが辿ってきた道であり、アマゾンも最近発表がありました。これも一つのチャレンジとして、必ず成功させるだろうと信じています。そして日本を代表するグローバル企業としてますますの発展を期待しています。
人事院は、国家公務員法に基づき、人事行政に関する公正の確保および国家公務員の利益の保護等に関する事務をつかさどる中立・第三者機関です。人事官は両議院の同意を経て、内閣により任命され、その任免は天皇により認証されます。詳しくは人事院のホームページをご覧ください。
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