Nature’s Fynd

Thomas Jonas
共同創業者兼CEO

フードテック企業Nature’s Fyndは、世界の食料システムをより良いものへと変革することを使命としています。
その方法とは?それは、アメリカのイエローストーン国立公園に起源を持つ微生物から培養されているFyと呼ばれる栄養価の高い菌類由来のタンパク質を活用することです。同社の食品は、肉や乳製品の代替品として、乳製品不使用のヨーグルトや植物由来の朝食用パティの形で提供され、現在、アメリカ国内の約1,000店舗で販売されています。
共同創業者兼CEOのThomas Jonasが、FyとAIの力を組み合わせることで、私たちの食のあり方がどのように変わるのかについて語ります。

Nature’s Fyndはどのように始まったのですか?

私たちの物語は、NASAが資金提供した極限環境に生息する生命の研究から始まりました。研究者たちは、極限環境微生物(エクストリーモファイル)がどのように過酷な条件下で生き抜くのかを解明することで、その知見を宇宙探査ミッションに応用しようとしていたのです。

この研究が私たちをイエローストーン国立公園の温泉地帯へと導きました。そこは、極めて異なる生態系を持ち、非常に高い酸性度や多様な化合物の密集しているのが特徴です。このような過酷な環境で、微生物は生き残るために進化し、少ない資源で多くを生み出す能力を身につけていました。これは、まさに現代を生きる私たちの世代にとっても重要なテーマです。2058年までに世界人口が100億人を超えると予測される中、どのようにしてすべての人に食料を供給するのか?気候変動の影響下で少ない資源で多くを生み出すにはどうすればよいのか?その答えは、自然の営みの中にあるのかもしれません。

どのような発見をしたのですか?

私たちは、植物でも動物でもない微生物を発見しました。それは菌類でした。菌類が興味深いのは、植物よりも動物(つまり私たち人間)により近い生物であるという点です。菌類は最大60%タンパク質で構成されています。発見した微生物は非常に高品質なタンパク質を有しており、人体の健康維持に必要な必須アミノ酸をすべて含んでいたのです。この微生物には、増え続ける世界人口に対し、持続可能な食料供給の源となる可能性があると感じました。

なぜ食料供給の源としてそんなに魅力的だったのでしょうか?

私たちが食料を確保する方法は、氷河期の終わり以降、漸進的な変化しか遂げていません。今から8,000~11,000年前に、私たちはさまざまな動植物を家畜化し、その多くが今も食の基盤となっています。私たちが食料生産に利用しているのは、ほんのわずかな種類の生物に過ぎません。

一方、菌類ははるかに効率的なタンパク質供給の手段を提供します。菌類においては、従来の農業と比べ、ごくわずかな土地と水で育てることができるのです。

問題は、見えないものをどのように育てるのか、という点でした。

そこでテクノロジーの出番ということですね?

その通りです。私たちはバイオテクノロジー企業であると同時に、消費者向けパッケージ商品(CPG)を展開する企業でもあります。私たちはFyというタンパク質の原料を作り、それを食品として商品化しています。 そして、このプロセスでAIを活用しています。

例えば、従来の農業では、リンゴ農家が水と日光が十分か、害虫の影響はないかを目視で判断できます。

私たちは、数十億もの微生物を発酵させています。発酵の分野自体は古くから存在していますが、菌類の微生物を発酵させて美味しいストロベリーヨーグルトを作るにはどうすればよいのでしょうか? 理想的な味、食感、クリーミーさを実現するには? どのような微生物の特性が必要で、どのような条件がそれらを生み出すのに適しているのか? これまで誰も試みたことがなかったため、誰にも分かりませんでした。そこで、私たちは革新的な発酵プロセスを開発する必要がありました。

そのために、私たちはコンピュータービジョンとディープラーニングを活用しています。AIモデルを訓練し、タンパク質バイオマスの画像と、発酵条件や求められる特性、例えば食感などとの相関を学習させています。このAIは、成長パターンのごくわずかな変化を検出できますが、それらは測定が難しいものです。AIはこの分析をグローバルなレベルで行うことができ、バイオマスの画像を用いて全体の状態を把握するだけでなく、ミクロのレベルでも、Fyの特定の形態的特性を観察し、その成長状態を評価することができます。

AIは、何が起こっているのかを可視化するだけでなく、条件や特性が最終結果にどのような影響を与えるのかを理解する助けにもなるのですね?

そうです。基本的に、視覚的な代替手段(プロキシ)を作り、それが何が起こっているのかを示し、基礎となる変数と相関させることができます。つまり、微生物にもう少し塩が必要なのか、それとも最適な成長のために特定のビタミンが不足しているのかを把握できるのです。興味深いのは、一度モデルを開発し、訓練すれば、それを非常に迅速にスケールアップできるため、学習と開発プロセスを加速し、コストを削減できることです。

他にはどのようにAIを活用していますか?

私たちは、AIを混合整数割当問題として知られる課題の解決に活用しています。果樹園の話に戻りましょう。リンゴはすべて同じではありません。ジュース作りに適したものもあれば、焼き菓子に向いているものもあります。同じように、私たちの微生物にも自然な属性のばらつきがあり、乳製品不使用のヨーグルト作りに適したものもあれば、肉を使わない製品に適しているものもあります。

では、異なる製品を作るために最適な微生物の組み合わせをどのように確保するのか? これもディープラーニングを活用してモデルを訓練することで実現しています。これは生産計画の立案に非常に役立っています。

また、CPGの分野では、生成AIを活用して新しいパッケージデザインを作成しており、開発時間を3分の1から5分の1に短縮しました。AIがすべての作業をするわけではありませんが、ツールとして活用することで、より多くの試行を可能にし、デザインとマーケティングのコラボレーションを加速させています。AIが食品業界をどのように変革できるかについては、まだ始まったばかりです。例えば、私は消費者の嗜好、味覚、ニーズをより迅速に理解するためにAIをどう活用できるかに興味があります。この領域では、生成AIや大規模言語モデル(LLM)が非常に興味深いインサイトを提供できる可能性があります。

今後100年先を見据えたとき、食品業界ではどのような変革が起こると思いますか?

現在の食品・農業システムは、温室効果ガス排出量の約20%を占めています。さらに、冷蔵庫を持っている人なら誰でも、このシステムに多くの食品ロスがあることを実感しているはずです。収穫から食卓に届くまでの間に、食品の約40%が失われていると思います。

この問題に取り組むには、単にデータを取得するだけではなく、経済全体にわたる広範なデータを理解することが重要です。種を植えるところから、実際に食べる瞬間まで、そこには多くのプロセスがあります。AIは、この一連のプロセスをより効率的にし、食品の生産から流通に至るまで大きな進歩をもたらすことができるでしょう。

また、人々が本当に求め、強く惹かれる製品を、よりスマートかつ迅速に開発することもできるようになるでしょう。それを低コストで実現できれば、消費者の満足度はより高まるでしょう。

AIはこの業界にとって革命的な存在になり得ますが、多くのことを再構築する必要があります。しかし、そのインパクトは非常に大きいでしょう。なぜなら、食品は誰にとっても必要なものだからです。

さらに、食には文化的な価値もあります。人々にとって特別な意味を持ち、食卓を囲み、食事を共にすることが重要なのです。AIを活用して、そうした体験をより豊かにしながら、コストと効率を向上させるにはどうすればよいのか? とてもワクワクするテーマです。

Fyを使って、他にどのような製品を開発できる可能性がありますか?

可能性は無限大です。私たちのFyタンパク質を活用することで、ヨーグルトからパニール(インドのカッテージチーズ)まで、多くの食品のタンパク質含有量を向上させることができます。

実は、多くの人が思っている以上に私たちは菌類由来の食品をすでに好んで食べています。例えば、パン、チーズ、ワインなどです。新しい食品とはいえ、多くの馴染みのある食品も、かつては「新しい」ものだったのです。例えば、Isaac Carassoが1919年にバルセロナで「ダノン」ヨーグルトを販売し始めたとき、あまりに革新的だったため、当初は薬局で販売されていました。

今後も新しい食品の世界は拡大し続けるでしょう。AIは、それをより効率的に、より無駄なく、そしてより美味しく実現するための強力なツールとなるはずです。

What dreams are made of