理念・ビジョン・戦略

2012年度新卒向けイベント「ソフトバンク新卒LIVE2012 ~ 孫 正義から未来を担う皆さんへのメッセージ~」

2012年度にソフトバンクグループへの入社を希望する学生を対象とした「ソフトバンク新卒LIVE2012 ~孫 正義から未来を担う皆さんへのメッセージ~」が、2011年2月21日(月)、東京・有楽町にある「東京国際フォーラム」において開催されました。ソフトバンクグループ代表の孫 正義が、日本の将来を背負って立つ若者たちに伝えたいメッセージや、ソフトバンクグループの創業から現在までの挑戦の歴史、情報革命にかける思いなどを、約4,500名の学生の皆さんに語りかけました。

人生の岐路に立つ若者たちへ

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皆さん、こんにちは。ソフトバンクの孫です。

昨年はNHKの大河ドラマで「龍馬伝」が放映され、私も毎週のように見ていましたが、実はソフトバンクのロゴマークは、坂本 龍馬が作った海援隊の船に掲げられていた隊旗より着想を得たものです。15歳のときに「竜馬がゆく」という本に出会い、私の人生観は大きく変わりました。この本に出会ったからこそ、高校入学直後に、単身で渡米しようと決意したのです。私にとっては、人生そのものに一番大きな影響を与えたのが、坂本 龍馬であり、それを紹介してくれた司馬 遼太郎さんの「竜馬がゆく」という本でした。

皆さんは今、人生の岐路に立っています。これから皆さんの社会人としての人生が始まるのです。まさにこれから皆さんが迎える時期が、人生の中で一番大きな、恐らく最初の、自分自身で選択する分かれ道ということになるでしょう。

「2011年 新成人に関する調査」(出典:株式会社マクロミル)によると、「日本の将来が不安か」という質問に対して、約90%もの新成人が「不安だ」と答えています。一方で、「自分たちの世代が日本を変えたい」と思っている人が約70%もいるのです。若い皆さんには、今のこの思いを大事にしてほしいと思います。もし、皆さんの世代までもがその気持ちをなくしてしまうと、日本の将来は本当に悲しく寂しい状態になってしまいます。“職”にありつけさえすれば生きていける、という受身の気持ちで就職活動を行うのではなくて、「自分たちの世代が頑張って日本を明るくしていく」という“志”を忘れないでほしいのです。

登る山を決める

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皆さんがこれから社会人になる中で、何の事業に携わり、何に自分の一生をかけるのか。つまり「どんな山を登るのか」を決めることに、重要な分かれ道があります。

私は、子どもの頃、小学校の先生・画家・政治家・事業家という、4つの将来の夢を思い描いていました。そんな私に大きな影響を与えたのが、司馬 遼太郎さんの「竜馬がゆく」という本でした。
坂本 龍馬は、藩の中で地位の低い下士であったために、幼少の時代から差別的な扱いを受けていました。しかし、「このままでは日本が欧米の列強に負けて、植民地化されてしまう」という危機感をもって立ち上がり、藩にも地位にも頼らずに、仲間と共に日本の国を変えてしまいました。お金や地位、名誉のためではなく、命まで投げ出して多くの人々のために成し遂げた、その“志”の高さに私は感動しました。そして、幼少のときから悩んでいた自分の国籍や劣等感などというものは、本当に小さなことだと気づいたのです。このときに、アメリカに行って世界を見てみようと決意しました。
こうして16歳でアメリカに渡った私は、日本だけではなく、世界中の多くの人々に影響を与えるようなことがしたいと思うようになりました。そして、この“志”を成し遂げるために、事業家になろうと思いを固めていきました。そんなときに、突然の出会いが訪れました。科学雑誌を読んでいて、当時生まれたばかりだったマイクロコンピュータのチップの拡大写真を目にしたのです。小指の爪ほどしかない小さなチップの中に、コンピュータが凝縮して入っていると知って、私は大きな衝撃を受けました。このとき、私の人生がさらに大きく変わりました。コンピュータに人生を捧げよう、と決めたのです。
アメリカから日本に戻った私は、事業家として会社を興すために、どんな事業を手がけるべきか、1年半かけて徹底的に考えました。そして、私が最終的に決めたテーマが、「情報革命」でした。これが、私が一生をかけて追い求める最大のテーマだと腹をくくったのです。

今はまだ「登山口」にすぎない

ソフトバンクがこれまで登ってきた山を振り返ると、1合目は、資金繰りや私自身の闘病など、創業期の試練の数々を乗り越えた「パソコン時代の勝負」でした。私は、19歳のときに「人生50ヵ年計画」を立て、「20代で名乗りを上げる、30代で軍資金をためる、40代でひと勝負する、50代で事業を完成させる、60代で次の世代に事業を継承する」と決めたのですが、まさに20代は、会社を興して名乗りを上げた時代でした。
2合目は、「インターネット時代の勝負」です。私が30代のときに会社が上場し、時価総額が2,000億円を超える規模になりました。予告どおり30代で軍資金をため、その資金でアメリカに進出することを決めたのです。そして、当時まだ無名だったYahoo!の可能性を見出し、インターネット革命を日本に輸入しました。
3合目は、Yahoo! BBのサービスを開始し、日本を世界一のブロードバンド大国に導いた「ブロードバンド革命への挑戦」。4合目は、ボーダフォン日本法人を買収し、携帯電話事業に参入した「モバイルインターネットNo.1へ」の挑戦です。ボーダフォン日本法人の買収時、私は48歳でした。まさに40代でひと勝負したわけです。
そして5合目は、中国における主要なインターネット企業とパートナーシップを結び、事業を順調に拡大させている「アジアインターネットNo.1」への挑戦です。
こうした挑戦の歴史を経て、創業30年で、営業利益6,000億円(連結営業利益2010年度実績)を生み出す規模にまで成長しました。
しかし、山というのは、途中まで登ると新たに見えてくる景色があります。5合目だと思うところまで登ってみたら、実は目指すべき山はもっと大きく、今いる場所はまだ登山口に過ぎないということが見えてきました。本当の登山はここから始まるのです。

ソフトバンクの未来への責任

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昨年の6月に、ソフトバンクの「新30年ビジョン」を発表しました。この「新30年ビジョン」は、全グループ社員2万人の叡智を集め、また、社外からもTwitterを通じて多くの方にご意見をいただきながら、1年間かけて作ったものです。
「新30年ビジョン」を作る上で、300年規模で大きく俯瞰して考えてみました。ムーアの法則*1にもとづいて計算すると、1チップのコンピュータに入るトランジスタの数は、2018年に人間の脳細胞の数を超えます。さらに300年後には、人間の脳細胞の1垓*2の3乗倍という膨大な数になります。つまり、この300年でトランジスタの数が一気に人間の脳を超え、人類最大のパラダイムシフトが起こるのです。ソフトバンクの未来への責任は、このパラダイムシフトに対して、人間の脳細胞の働きを超える「脳型コンピュータ」を実現させることです。
こうした脳型コンピュータが実現すると、高度なDNA治療や人工臓器の開発なども進み、それらが一般化していくでしょう。その結果、人間の平均寿命は、300年後には200歳ぐらいにまで伸びるだろうと私は予想しています。
そして、自分の判断で、豊かな愛情で人々を救済するようなロボットすら生まれてくるでしょう。彼らは、人類が今まで解決できなかった、大災害やウイルスのようなさまざまな問題からも人類を救ってくれるかもしれません。
しかし、それでも300年後も、人間は人間同士の心の葛藤で悩んだり、喜んだり、愛し合うことを続けているはずです。でも、もしかしたら人間同士に留まらず、人間と“超知性”を持ったロボットが、感情を交信し合える時代がくるかもしれないのです。
そんなSF映画に出てきそうな300年後の世界を思い描くと、30年後の話というのは、実に現実的なものに見えてきます。今から30年後には、人間の脳細胞の約10万倍の数のトランジスタが1チップに入るようになります。メモリ容量は現在の約100万倍、通信速度は約300万倍になるでしょう。30年後のiPhoneには、5,000億曲もの曲が入り、新聞にして3億年分もの情報が入るようになります。また、電子機器だけでなく、身の回りのあらゆるものにコンピュータのチップが入り、人々のライフスタイルも大きく変わっていきます。しかし、私たちがこうした世界を実現させるのは、人々をただ驚かせたり、お金儲けの道具にするためではありません。人々をより幸せにするために、私たちは「情報革命」を実現するのです。

情報革命に人生を捧げる

こうして、昨年、多くの方の叡智を集めて「新30年ビジョン」を作りました。しかし、「新30年ビジョン」を作ったのは、次の30年だけではなく、私たちのグループが300年間成長し続けられるような組織論を設計するためでもありました。私は、30年以内に、現在800社あるソフトバンクグループの企業を、5,000社にまで増やしたいと考えています。それらが同志的結合をして、自己増殖、自己進化を繰り返していくような組織体を作りたい。その思いを次の世代の経営陣に伝えていくために、後継者育成機関「ソフトバンクアカデミア」を開校しました。私の後継者は、皆さんの中から生まれるのです。また、後継者だけではなく、会社は多くの社員によって成り立っていますから、社員がいろいろな技術や知識を学習するための「ソフトバンクユニバーシティ」という制度も作りました。皆さんにもぜひ、切磋琢磨していただきたいと思っています。

 

先日、Twitterでとてもうれしいメッセージが届きました。
「私は手が不自由なのですが、iPhoneを使って14年ぶりに自分の力で字を書くことが出来ました!下手な字ですが感謝を込めて」
このメッセージには、「孫さん、ありがとう!」という手書きの文字が添えられていました。これを読んで、私は涙が出るほどうれしかったです。大人たちはよく「デジタルの世界に心なんかない」と言いますが、そんなことはない。デジタルの世界にも人と人のつながりがあり、そこには心があるのです。
病院のベッドで、余命5年と言われたとき、「本当の自己満足は、お金のためではない」と思いました。家族や社員、お客様の笑顔が見られたら、そして、見ず知らずの名前も知らない小さな女の子が喜んでくれたら、それだけで私は幸せです。そういう思いのために人生を捧げたいと思います。人々のために、一緒にやりましょう。

 

ありがとうございました。

(掲載日:2011年5月20日)

  1. 「半導体の集積密度は18ヵ月から24ヵ月で倍増する」という経験則。米国の半導体メーカー、インテル社の創設者の一人、ゴードン=ムーアが提唱。

  2. 1垓(がい)=1兆の1億倍の単位

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