では「IT立国」で、日本がもう一度世界一を取り戻すために、何をすればいいのか?
その例は、お隣の韓国にあります。1990年代、IMF危機で、韓国は国そのものが倒産寸前に追い込まれました。その時私は、就任間もない金大中大統領(当時)に招かれました。私のほかに、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏も招かれました。
私は金大統領から、こう聞かれました。
「孫さん、ビル・ゲイツさん、我が国はつぶれそうだ。復活させなければいけない。どうしたら良いか知恵をくれ」
そこで私は、「方法は3つある」と申し上げました。
「1つ目 ブロードバンド、2つ目 ブロードバンド、3つ目 ブロードバンド」と。
金大統領は、私の隣にいたビル・ゲイツ氏に、「あなたはどう思いますか?」と問いかけました。すると彼も「100%賛成だ」と言いました。
金大統領「孫さんとビル・ゲイツさん2人がこれをやれというなら、私はこれをやる。約束する。ところでそのブロードバンドって何ですか?」
孫「それは一言でいえば高速インターネットです。大統領もインターネットはご存じですよね?」
金大統領「それぐらいは私も知ってる」
孫「それを高速にする。単に高速にするのではなく、1,000倍高速にする。これがブロードバンドです」
当時のインターネットは、アメリカが第1位で日本が第2位。韓国は出遅れていました。しかし私たちの進言を受け、金大統領が決断したことで、韓国では「大統領命令」として「IT基本法」ができました。その結果、韓国は世界一のブロードバンド国家になりました。日本はADSLで一度、世界一速く・安いブロードバンド大国になりましたが、現在の状況は、世界第3位です。もう一度これを抜き直し、世界一になりましょう。
情報通信のインフラさえ整えば、ソフトウエアなどのアプリケーションは民間が頑張ります。ですから“天下国家のこと”を議論される議員の先生方、国会、政府の皆様には、「インフラの議論」を集中してやっていただきたいのです。そこで私は、「IT立国世界No.1へ」というビジョンを、「日本の成長戦略の一番ど真ん中に据えるべき」と、提言します。
「戦略」とは戦いの大枠を決め、他を全部削ることです。「決断」とは、決めて他を切る、という意味です。官僚やジャーナリストの皆さんは、常に両論を併記しなければいけない立場です。片方を言えば、もう片方にも言及しなければなりません。
しかしこれでは国は動かない。
したがって、“最後に腹をくくる”のは政治家の先生方です。政治家の先生方に、あまり細かいことを言っても仕方がない。政治家に求められるのは、重箱のすみをつつくような話ではなくて、“ど真ん中のど真ん中で腹をくくる”ことだけなのです。法律を決める以外に、役割はありません。法律は民間人に決めることはできません。国民に選ばれた、議員の先生方にしかできないのです。ですからその法律を決める立法府の一番中心におられる先生方に、腹をくくっていただきたい。
新成長戦略に“御託”を100個並べてもわけが分からない。
中心は一本に絞らなければなりません。
Appleのスティーブ・ジョブズ氏は、「iPod」一本に絞り、それを成長させて「iPhone」をつくりました。工場を売り、最高のイノベーションを行った。これで復活することができました。日本全体がそういう復活劇を演じなければいけません。だから「IT立国」。これで日本を復活させると決めて、他を絞りましょう。