孫:シンギュラリティ時代がやって来た時に、ソフトバンクグループはどうするのか。われわれは35年間事業をやってきましたが、次の30年間はどうやって生き残っていくのか。300年間続く組織とはどうあるべきなのか。重要で意義のある会社として、ソフトバンクグループはどうあるべきだと思いますか?
アローラ:現在、私たちは二つの意味で歴史の中でユニークなポイントにあると思います。
一つ目は、これまでにないほど大勢の起業家がいるということ。二つ目は、今ほど簡単に事業を始められる時代はなかったということ。これまでは、自分の足で徐々にマーケットを広げて全国的な規模の企業に成長させていかないといけませんでした。今はテクノロジーやブロードバンドのおかげで、皆が携帯端末を使いインターネットへアクセスする仕組みができ、写真や動画を撮る・投稿する・評価するという仕組みもできました。技術の進歩によってさまざまなことが簡単にできるようになり、新しい事業を始めやすくなりました。革新のペース、創業の速度は加速していくと思います。だからこそ、これだけのスタートアップが生まれている。
インドでは2014年だけで500社が新たに設立されました。インドの歴史の中で、これほどの数の会社が一度に設立されたことはありません。シリコンバレーでも同じことが起こっており、日本でも同様のことが起こるでしょう。過去を振り返るとGoogle、Facebook、アップル、テスラ、IBM、AT&T、AOL、Yahoo!など、世界の素晴らしい企業は情熱のある賢明な起業家によって設立されています。そして、ソフトバンクグループのようにどんどん成長しました。ただ、創業者が年をとり、利益も上がってくると、小さなリスクも回避するようになり、また他の人に運営を委託するようになって、成長が停滞、または右肩下がりになってしまうこともあります。
孫:ここ100年間のアメリカの自動車業界を見ると、偉大な起業家が立ち上げた全ての企業が停滞してしまっています。
アローラ:彼らは成功の方程式を見つけたことに満足してしまい、革新することをやめてしまいました。一方、われわれの場合は、それをリスクと考えています。
スティーブ・ジョブズ氏がアップルに戻ってきたこともありましたが、それは成功のための長期戦略にはなりません。ソフトバンクグループの戦略は、われわれが若くなる代わりに毎年優れた起業家を探して、彼らの情熱や創造性に投資していくことです。毎年5~10人くらいの素晴らしい人に出会えるかもしれませんし、そのうちの何人かが次のスティーブ・ジョブズ氏やラリー・ペイジ氏になるかもしれません。
そして、世代が入れ替わる中で、ソフトバンクグループ株式会社がポートフォリオの中心となって魅力的な起業家に投資を行い、また助言者として、ポートフォリオの中から彼らをサポートできる企業を紹介したり、多くの起業家に知恵を授けていきます。次の世代の起業家を仲間に取り込むことは、われわれが若くあり続けるための面白い戦略になると思います。
孫:私も長い間全く同じことを考えてきました。同じ考え、情熱を持つ人を見つけることができたことを本当にうれしく思います。若い情熱的な起業家を迎え入れ、新しい血を取り込むことで、若くあり続ける。これこそが私の信念でもあります。そうすることでソフトバンクグループは常に情熱のある起業家の集合体になり、どんどんリフレッシュしていきます。彼らが独立した時にはそれを祝い、キャッシュが入ってくればそのお金で次の情熱あるスタートアップに投資していけば良いと思います。時には何かしらのアドバイスもできるかもしれません。
アローラ:孫社長とは一年半近く一緒にいますが、強い情熱を持っており、年を取ったと言うにはまだ早いと思います。毎晩のように電話でスプリントの建て直しについてアドバイスもしています。その情熱はどこからくるのでしょうか?
孫:一番の原動力は、お金ではなく、人々の幸せに貢献できる組織をつくりたいという信念だと思います。意義のあることをしたいという情熱です。シンギュラリティが来たら、頭の良いロボットやコンピューターが開発されていくと思いますが、私は優しい心を持ったロボットを作りたいと思っています。できれば悪い感情を持たないロボットを作りたいですね。
アローラ:優しい心を持つPepperはソフトバンクで、悪い心を持つロボットは他社でということですか?
孫:そうですね(笑)。では人で考えてみましょう。
最も頭が良い人と、最も頭が良いわけではないけどハートを持った人では、どちらがいいですか?
アローラ:もちろんハートを持った人ですが、仕事をするなら前者ですかね。
孫:生産性を考えたらそうですね。
アローラ:思わず自分自身のことを考えてしまいましたよ。私はどっちだろうと。
孫:どちらの側面も持っていると思いますよ。
頭が良いことは大事ですが、もっと大事なことはハートを持っていることだと思うのです。だから私はPepperに良いハートを持たせています。Pepperを購入したお客さま、ご家族が幸せになってほしい。このIT業界では生産性向上に向けたさまざまな取り組みがされていますが、それ一辺倒にはなりたくないと思っています。
アローラ:過去10年で見ると、インターネット、Facebook、Twitter、電気自動車、火星探査などさまざまな革新が生まれてきましたが、これからの20年、30年を見据えた場合、他にどんな業界で革新の余地があり、新しい起業家がチャンスを得ることができると思いますか?
孫:これからの医療業界は、ITの力を活用することで、より効果的な薬、DNA・血液検査などを行えるようになるでしょう。医療業界は、ITによって劇的に向上する分野の一つだと思います。過去の電化製品は確かに生産性向上に貢献しましたが、常に人間がコントロールしていないといけませんでした。目覚まし時計もそうですよね。しかし、それらの知能がより発達すれば、目覚まし時計をセットする必要もなくなります。私のスケジュールから起きるべき時間を判断し、知らせてくれるようになります。全ての電化製品がスマートになっていくでしょう。
アローラ:われわれが病気になったとき、自分自身についてのデータはほとんどありません。病院に行くたびに、同じ検査を行い、同じ質問をされ、どんな気分かを説明することはとても難しい。そういった情報が全てデータ化されれば、医療業界も大きく躍進するでしょうね。
孫社長は冒頭で一人当たり1,000台のものがインターネットにつながると言っていましたが、どういうことかもう少し詳しく教えていただけますか。
孫:電化製品だけじゃなくてシャツやパンツ、靴、眼鏡もインターネットにつながるようになります。あとは飲み物を飲むグラスにも。
アローラ:グラスをインターネットにつないで、何をするのでしょうか?
孫:中に何が入っているのか、そのカロリーや身体に良いものなのか悪いものなのかも教えてくれるようになるでしょう。身体に悪いと言われても食べたり、飲んだりすることはあるでしょうが、もし重病を抱えているような場合は、避けることができます。
アローラ:そうすると社会にはどんな影響があるでしょう? 政府は全てを監視するようになるのでしょうか?
孫:セキュリティやプライバシーは非常に重要になりますし、人とコンピューターの間にも新しい規制ができるでしょうね。
アローラ:教育についてはどうでしょうか? 現在の教育というのは画一的で、毎日同じ時間に学校へ行き、皆と同じ時間に同じ内容の授業を受け、同じ宿題をこなします。授業はいつも、平均的なレベルの学生を基準として行われていますね。
今の時代は、もし授業に出なかったとしても、インターネットで探せば、素晴らしい講師による授業を動画で受けることができます。教育のシステムが変わり、おのおののペースで学ぶことができるようになります。
孫:例えば子どもの能力に合わせて、楽しみながら学習できるようにPepperが子どもたちに数学や英語を教えることができれば、Pepperは子どもたちにとって素晴らしい仲間となり、また、より生産性の高い教育ツールになると思います。
アローラ:先生と相性が合わないような場合も、子どもたちは先生を自由に選ぶことができるようになるべきだと思うのです。