Arm
Will Abbey
エグゼクティブ・バイスプレジデント
兼チーフコマーシャルオフィサー
Armは、スマートフォンやタブレット、組み込みシステム、車載アプリケーション、データセンターなど、幅広いプロダクト向けプロセッサのアーキテクチャを設計し、ライセンス提供を行っているコンピューティング・プラットフォーム企業です。
Armのエグゼクティブ・バイスプレジデント兼チーフコマーシャルオフィサーのWill Abbey氏は、バッテリー駆動型のモバイルデバイス向けソリューションを開発してきたArmのルーツが、進化し続けるAIコンピューティングの世界においてリーダーとしての確固たる地位を確立していることについて語ります。
Armの事業内容について教えてください。
Armは、さまざまな電子機器に使用されるエネルギー効率に優れたプロセッサの設計図を作成しており、チップの製造は行っていません。プロセッサの動作の基本設計となるアーキテクチャを作成し、それを基に他社が独自のチップを製造できるようライセンスを提供しています。また、Armのアーキテクチャはカスタマイズ性が高く、各社のニーズに応じて機能を追加することも可能です。
Armとモバイルデバイス向けチップ、最近のAIとの関連性について教えてください。
関連性は非常にシンプルです。最もパワフルな演算性能を最大のエネルギー効率で提供することです。これが、ArmのDNAの根底にあるものです。
モバイルの黎明期では、バッテリー寿命が大きな課題で、その制約に対応したエンジニアリングがなされていました。その結果、Armはエネルギー効率に優れた演算処理能力で広く知られるようになり、今日に至るまで、それがあらゆる事業活動の基盤となっています。
AIの分野においても、膨大な処理能力が必要とされる中で、高いパフォーマンスとエネルギー効率を実現できることが大きな強みとなっています。
注目されているAIアプリケーションやフォームファクタの多くは、エッジコンピューティングの一部であると定義されています。Armは、自らをエッジAIのパイオニアだと考えていますか?
まず、エッジとは何かを定義する必要があります。従来のコンピューティング・パラダイムは、中央のデータセンターで構築されており、データセンターの外側にあるものはすべてエッジデバイスとみなされています。帯域幅の制限や待ち時間などの課題から、ネットワークの末端である発信元の近くでデータを処理することは理にかなっています。
工場やオフィス、家庭で何が起きているかを見れば、より多くのデバイスがスマート化し、機能が拡張されていることが分かります。エッジデバイスにおけるより高度なインテリジェンスと演算能力へのニーズは今後ますます高まっていくでしょう。
人々がAIに抱くより大きな夢の多くは、持ち運んだり、身につけたり、さらには埋め込んだりできる、小型で特定の用途に特化したデバイスに関するものです。これにより、周囲の環境や人々とより直接的かつ密接に関わることができるようになります。
Armのデザインには、幅広いエッジデバイス上での新たなアクティビティや演算ニーズ、アプリケーションのワークロードを促進することが必要不可欠です。
Armのアーキテクチャは主にエッジで展開されていますか?
Armはモバイルから始まりましたが、現在ではエッジデバイスからクラウドコンピューティング、データセンターまで、あらゆるところで採用されています。世界有数のデータセンタープロバイダーでもArmの技術が活用されています。
データセンターはインターネットの中枢です。エッジデバイスもデータの送受信にデータセンターを必要とします。効率的であればあるほど良いのです。データセンター内のエネルギー効率を高めることは非常に大きな課題であり、Armは実績に基づく独自のソリューションを有しています。
つまり、データセンターの演算とエッジの演算の両方が、共通の省電力アーキテクチャ上でAIのワークロードを実行できるため、ソフトウエア開発者は、エッジ用アプリケーションからデータセンター用のアプリケーションのコーディングに、作業方法を変更することなく簡単に移行できるのです。
Armと開発者コミュニティとの関係について教えてください。
Armの強みは、省電力でありながら高性能なDNAにあります。それだけでなく、ソフトウエア開発者のコミュニティも大きな強みです。
ハードウェアだけでは不完全であり、その上で動くソフトウエアが必要です。そして、開発を行うほど、プラットフォーム上でのイノベーションは加速し、好循環が生まれます。
現在、2,000万人もの開発者が、Armのエコシステム内で多様なアプリケーションやユースケース向けにコードを書いており、取り組んでいることや必要としていることについて直接フィードバックを受けています。このサイクルは、よりイノベーティブなプロダクトを開発し続けるのに役立っており、開発者との関係は他にはないユニークなものです。
AIに関するビジョンは?
Armはエコシステムを活性化させる存在です。世界に変革をもたらす画期的なテクノロジーを通じて、イノベーションと進歩を実現しています。私たちは、将来を見据えたAIの実現に向けて機能とプラットフォームを開発しており、その分野に携われることを大変うれしく思っています。
個人がどのようにテクノロジーを活用できるかという観点で、未来がどうなるかを示す、小さいながらも重要な事例を一つ挙げてみましょう。
これは遠い将来の話ではなく、今まさに取り組んでいることです。マラリアは数百万人の子どもの命を奪っていますが、予防が難しい理由の一つとして、特定の期間内に特定の順番でワクチンを接種しなければならないことが挙げられます。発展途上国では、私たちの医療サービスで使われているような記録やシステムがないことが多く、人々は頻繁に移動や避難を繰り返すため、すべての子どもたちに予防接種を行うことは非常に難しいのです。
この分野におけるさまざまな関係者と協力して開発したArmのソリューションは、低コストかつ低消費電力の生体認証センサーで、予防接種記録を追跡できるものです。指紋認証を行うだけで、移動先でも自身の予防接種記録にアクセスできるようになります。
これは、AIアプリケーションを搭載した特定の用途向けのエッジデバイスを活用し、健康上の成果を促進し、発展途上国の恵まれない人々に有意義な変化をもたらす一例です。
Armは、「AIの未来はArm上で構築される」という意欲的なメッセージを掲げていますが、よりスマートで高速、かつ接続性の高いAI対応デバイスが多様化する未来を考えれば、私たちの強力で効率的なアーキテクチャが、次のデジタルの進化を実現するリーダーとしての地位を確立する要であることがわかるでしょう。
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