理念・ビジョン・戦略

2010年度 新卒採用合同セミナー「孫 正義 LIVE 2010」

2010年4月にソフトバンクグループに入社希望の大学生・専門学生を対象とした就職説明会である「孫 正義LIVE 2010」が、2009年1月28日、東京の有楽町にある「東京国際フォーラム」において開催されました。本年もグループ代表の孫 正義が壇上に立ち、ソフトバンクグループの目指すものを始め、また若い学生の皆さんが将来の自分自身のあり方についてどう考えたらよいか、自身の経験も踏まえながら語りました。

19歳の時に衝撃を受けた1枚の写真

ソフトバンクの孫です。

私が日本人の中でもっとも尊敬し、もっとも好きな人物、それは坂本竜馬です。彼が活躍した時代、日本に黒船が来航し、それまで何百年か続いてきた武士の社会が崩壊するという動乱の時でありました。今、世界は100年に一度と言われるような経済危機の状況です。こういう危機の時は、今までの常識では考えられないような困難がやってきます。そういう時にこそ、本当のリーダーが立ち上がるのではないかと思います。幕末の動乱の時代、名もなく貧しい若い武士や農民が立ち上がり、自分の命を懸けて行動を起こしました。困難な時にこそ真の英雄は現れます。その英雄の中には、死ぬまで名を残さなかった人もたくさんいたことでしょう。しかし自分の高い「志」のために、自分の人生を懸けて努力した、そんな人たちはみんな英雄ではないでしょうか。

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私は19歳の時、留学中のアメリカで、科学雑誌に掲載された1枚の写真に目を奪われました。それはマイクロコンピューターのチップの写真でした。当時のコンピューターは大変大型でしたが、それが指に載るほどの小さなチップで大型コンピューターを上回る能力を出しうることを知りました。それは衝撃的で、感動のあまり涙が止まりませんでした。そして「これに自分の人生を賭けよう」、そう決心したのです。

しかし事業を興す時思い悩みました。何をしたらいいか。どこに自分のエネルギーを向かわせるべきか。お金も人もテクノロジーもない。でも一度しかない人生、何か大きいことをやりたい。単なるお金儲けではなく、世のため人のため多くの人に幸福を与え、人々のライフスタイルを変えたい。そういう「志」を持って、ソフトバンクを立ち上げたのです。

デジタル情報革命、インターネット革命を起こす

高い「志」を持ち、それに向かって行くためには、中長期の目標を持つことが大切です。3年5年という短い期間で見ていると、見方を誤ります。特にこのような100年に一度の危機の時こそ、30年、50年先を見なければなりません。先を見るためのコツがあります。それは過去を振り返り、人類の歴史を大局観で持って見つめることです。

人類には20万年の歴史がありますが、大きく分けて3つのステージしかありません。第一は農業革命、第二は工業革命。そして第三がコンピューターによってもたらされる「デジタル情報革命」です。農業革命と工業革命は、人間の肉体労働力の置き換えでした。それに対してデジタル情報革命は、脳の思考力の置き換えと言うことができます。

人間の脳細胞は約300億個あると言われていますが、実はその3%しか使われていません。100%使われていると仮定して、300億個のトランジスタがワンチップのコンピューターに入れば、ハードウエア的には人間の脳と同じ働きを持ったということになります。ワンチップのコンピューターの数が人間の脳細胞と同じ300億個になるのは、現在の発展ペースで行くと2018年前後と私は予測しています。さらに12年後の2030年には、コンピューターのチップは、脳細胞の約1,000倍になります。もし人間の脳の1,000倍の能力を持ったコンピューターを間違った志に使われたなら、人類社会は崩壊します。しかし人を幸せにしたいという清らかな気持ちで使えるなら、それは立派な社会だと思っています。コンピューターというすばらしい利器を正しく使っていこうと、少なくとも私は考えています。

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では、ソフトバンクは何をしていくのかを少しだけ説明します。ソフトバンクは多くのインターネット関連の会社を経営していますが、それは「情報革命=インターネット革命」と考えているためです。21世紀の人々の大切なインフラ、人々の知恵と知識の情報の道路がインターネットです。かつて日本は先進国の中で、インターネットが世界一遅くて高い時代がありました。私は日本がインターネットで他の国々と十分に戦っていくためには、革命を起こすしかないという思いで「Yahoo! BB」を立ち上げました。4年間、多額の赤字が出ましたが、この革命のために徹底的にやる覚悟でした。その結果、日本のインターネットは世界一速く、安くなったのです。さらに私はインターネットの中心がパソコンから携帯電話に移ると考えました。今から5年前のことです。現にその時代がやってきました。ソフトバンクは昨年7月に「iPhone™ 3G」を発売しましたが、私自身、この「iPhone 3G」を使うようになってからは、1日にインターネットを使う時間が3倍になる一方、パソコンを使う頻度は10分の1に減りました。数年後にはごく平均的な携帯電話が「iPhone 3G」のようなインターネットマシンに進化します。これこそインターネット革命です。2030年には、脳の働きの1,000倍の能力を持った携帯電話が世界中のインターネットマシンとつながり、人類のあらゆる知識が一瞬で検索でき、コミュニケーションすることができるのです。

ソフトバンクの未来へのビジョン

次の30年、ソフトバンクのビジョンは、「モバイルインターネットを制するものがインターネットを制する」「アジアを制する者が世界を制する」この2つです。ソフトバンクは世界一のインターネットカンパニーを標榜して、世界最大の携帯電話ユーザーを持つチャイナモバイル・リミテッドと、世界最大の売上を持つボーダフォングループPLCとのジョイントベンチャー「JIL(ジョイント・イノベーション・ラボ)」を設立しました。3社のユーザーを合わせると約10億人です。かつて坂本竜馬は薩摩と長州を同盟させ明治維新を起こしましたが、我々は世界1位と2位の携帯電話会社と連合軍を作ったわけです。日本は世界一携帯電話が進んでおり、そのノウハウを持つソフトバンクが2社にアイデアを提供し、世界中のお客様に対して新しいビジネスモデルやテクノロジーを作り出し、モバイルによるインターネット革命を提供していこうとしています。

「アジアを制する者が世界を制する」のはなぜか。中国のGDPは2年後に日本を抜き、20年以内にアメリカを抜き、その後インドも日米を抜くと言われています。21世紀はどんな業界でも、アジアを制さなければ世界一にはなれないのです。ソフトバンクグループは、さっそく中国で「アリババ・ドットコム」を中心に、BtoBビジネス、ネットオークション、電子決済、SNSの4つで圧倒的No.1のポジションを確立しました。これに日本のNo.1サイトである「Yahoo! JAPAN」を合わせて、アジアのインターネットNo.1をほぼ手中にしています。この2つのビジョンを実現できたなら、ソフトバンクは自信を持って、将来に向けた経営をしていけると考えています。

日本で最初に株式会社を作ったのは坂本竜馬です。彼は明治維新を起こしただけではなく、日本で最初に「会社」を興した人物なのです。「会社」を英語に訳すと「カンパニー」です。「カンパニー」の語源は、“一緒にパンを食べる仲間たち”、すなわち一緒に生活し、パンを分かち合い、苦楽を共にする仲間のことを言います。「志」を持った人たちの結合体、それが「会社」なのです。もしソフトバンクに入って一緒に仕事をしていただくのであれば、お金や生活のためだけではなく、一緒に苦楽を共にできる、そんな人に来ていただきたい。人類が生み出したコンピューターという文明の利器を、正しい「志」のために利用する仕事のために一緒にやってほしい。そして人類のあらゆる知恵と知識を分かち合い、より豊かでより楽しくより幸せな社会を作る、21世紀の新しいライフスタイルを提供する、そういう理念のもとにがんばっていきたいのです。

夢を「志」にしていきたい。ありがとうございました。

(掲載日:2009年3月10日)

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