理念・ビジョン・戦略

2011年度新卒向けイベント「孫 正義 LIVE 2011」

2011年度にソフトバンクグループへ入社希望の学生を対象とした「孫 正義 LIVE 2011」が、2010年3月29日(月)、東京・有楽町にある「東京国際フォーラム」において開催されました。今回は約5,000名の学生の皆様に、ソフトバンクグループ代表の孫 正義より、自身が何を想ってソフトバンクの事業を興したのか、どんなことを成したいと思っているのか、どういう志を持っているのかを語りかけました。また「孫 正義 LIVE 2011」は、「Ustream」、「Twitter」でも生中継され、多くのご視聴をいただきました。

志高く

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皆さん、ソフトバンクの孫です。
本日はお忙しいところ、たくさんお集まりいただき、本当にありがとうございました。

今年はNHKの「龍馬伝」の放映もあって、坂本龍馬ブームと言っていい状況です。実は私たちソフトバンクのロゴマークは、龍馬が作った海援隊の二本線の旗から生まれました。私たちも、自由な発想力と大胆な実行力で日本を近代国家に導いた龍馬のような「志」を持ちたい、という思いから決まったのですが、日本はまさに当時の幕末のような状態にあり、政治や経済などさまざまな問題により、国全体が活力を失っています。日本をもう一度よみがえらせるためには、龍馬のような高い「志」を持った若者たちが結集し、「この世の中をもう一度活性化させる」という思いを持つことが大切です。

私たちソフトバンクは、少なくともそういう思いを持って事業を進めておりますが、日本にはソフトバンクだけではなく、素晴らしい人物や会社、組織があると思います。そういう人たちが奮起して、また皆さんのような若い人たちが一念発起して、「日本にもう一度夜明けを迎えさせる」という気概で、がんばってほしいと思います。

「志」を立て、渡米

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私は16歳のときに、日本の高校を辞めアメリカに渡りました。休学をすすめる周囲の説得を断り、病に倒れて入院中の父を置き、泣きながらしがみつく母を振り切り、自ら退路を断ってアメリカへ行きました。退路を断たないと困難に立ち向かえないと信じたからです。アメリカでは、死ぬほど勉強しました。途中肺炎になっても、病気になったことすら気がつかないほど猛烈に勉強し、寝ている時間以外は、すべて勉強していました。

大学生だった19歳のときに、出会いは突然訪れました。科学雑誌で生まれたばかりのマイクロコンピュータのチップを見て、衝撃を受けたのです。
「人類は初めて、自らの脳の働きを超えるかもしれないものを作りだした!」
20世紀末や21世紀の人類社会は、このマイクロコンピュータの出現でいったいどう発展していくのか。このことを想像しているだけで、恐ろしいほどの衝撃と、
感銘を受けたわけです。

自分が登りたい山は何か?

猛烈に勉強した結果、いくつものアメリカの名門大学院から、たくさんのお誘いを受けました。
しかし母と交わした、「大学を卒業したら日本に帰る」という約束を守り、すべての誘いを断り、日本に帰ってきました。
そして日本に戻ってからの1年半、これから何をなすべきか、真剣に悩みました。

「自分のエネルギーを何に使いたいか」
「自分が登りたい山は何か」
「自分の志とは」
「自分の成したいこととは」

そしてこう思いました。「登りたい山を決める。これで人生の半分が決まる」と。

人がまだやっていないこと、人の役に立てること。自分が継続して好奇心を持ち、常に何かの技術革新があり、冷めない情熱を一生持ち続けられるもの……40ほど事業を考えた末、「デジタル情報革命を通じて、多くの世の中の人々、世界中の人々が、知恵と知識を共有できるような、大きなネットワーク、プラットフォーム、サービスを提供する。そういう事業を通じて、人々がより幸福になり、仕事の生産性があがる。楽しくなる。病気の人が助けられる。そういうような仕事であれば人生を賭けるのにふさわしい、それが自分の『志』だ。」と決意しました。
こうして、日本ソフトバンク(現ソフトバンク)という会社を興したのです。

命を賭けた大勝負

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30代の最後のとき、いわゆるインターネットバブルで株価がすごい勢いで上がっていきました。でも、「お金はどうでもいい。もっと人に喜んでもらえることをしよう」、そう思い、当時先進国で世界一価格が高くて、スピードが遅いと言われていた日本のインターネットをなんとかしようと、ブロードバンド・インフラ事業に乗り出す決意をしました。

ところが直後にインターネットバブルが崩壊。わずか1年間で、ソフトバンクの株式価値は約100分の1にまで落ちました。世間では、ネット事業をしていることが、詐欺師のように扱われるようになってしまったのです。

どん底でした。お金もなくなってしまいました。しかしそんな時だからこそ、「自分は何のために生まれてきたのか。なんのために『志』を立てたのか。デジタル情報革命に人生を捧げたのだから、ここでひるむわけにはいかない!」、そう思いました。

「ここでもうひと勝負する!名もいらない。金もいらない。地位も名誉もいらない。ソフトバンクがなくなっても、日本国民が最終的に全部インターネットユーザになって、いつの日か、日本国民が喜んでくれればそれでいいじゃないか」
結果、日本のブロードバンドは世界一安く、世界一高速になりました。
そのくらいの覚悟がなければ、事は成せないのです。

ブロードバンド・インフラ事業でようやく利益が出るようになり、インターネットバブル崩壊で負った傷が少し癒えたころ、もう一回大きな勝負に出ました。ボーダフォン日本法人の買収です。19歳のときに立てた「人生50カ年計画」の中で、事業家として40代の時に勝負すると決めていました。このとき私は、48歳でした。40代の最初にブロードバンドで勝負しましたが、まだ足りない。やはりモバイルインターネットの世界を実現しなければならない。一時2,000億円まで落ち込んだ時価総額は、2兆円まで持ち直していましたが、そのすべてを賭け、勝負に出ました。

当時、番号ポータビリティ制度が始まる直前で、ボーダフォンは“草刈場”になると言われていました。そのとき4つの弱点があり、「端末」「ネットワーク」「コンテンツ」「ブランド力」の問題を、解決しなければなりませんでした。これらの問題を解決しながら、シンプルな料金プラン「ホワイトプラン」や、CMで好評をいただいている「白戸家」など、いろいろ取り組んでまいりました。そこに「iPhone™」が登場し、ソフトバンクはどんどん伸びていくことができました。大きな買収劇となりましたが、今では順調に利益を出せるようになりました。

今後は純有利子負債を完済し、私の50代で、ビジネスモデルを完成させます。

ソフトバンクグループが目指すもの

今、ソフトバンクグループが目指している方向性は2つあります。それは「モバイルインターネットNo.1」と「アジアインターネットNo.1」の会社になるということです。

産業革命により、人類の社会は農耕社会から工業社会になりました。第一次産業革命はイギリスを中心とした、軽工業でした。第二次産業革命は、アメリカを中心とした重工業。今はその第二次産業革命の末期です。日本が最近輝きを失っているのは、この末期にあたる時期に、日本の存在意義がゆらいでいるためなのです。なぜなら第二次産業革命は、より賃金が安く、材料が安い中国やインドにシフトしているからです。そして今後の50年を考えたとき、国内市場のボリュームが大きい中国やインドを相手に、日本が再び工業生産国として競争力を取り戻すことは、一部を除き、ありえないと断言できます。では日本が唯一復活できる可能性があるものは何か? それは筋肉や人口の数ではなく、「頭で勝負すること」です。ITの第一次革命はアメリカでしたが、ITの第二次革命は、アジアが中心になります。さらにITの中心がパソコンからモバイルに移るとき、もう一度スタートラインに並びます。今、この2つの面でチャンスが訪れているのです。

今日本では、「iPhone」を使う人が、増えています。もちろん「iPhone」だけではなく、「Android™」などを搭載したスマートフォンも、続々と出てきます。ケータイが音声を中心とした「携帯電話」と言われていた時代から、「モバイルインターネットマシン」と呼ばれる時代になるのです。まさに今、「Twitter」をはじめとしたコミュニケーションの登場により、実際にそういう状態になりつつあります。さらに「Ustream」では、文字だけではなく、リアルタイムの動画で、世界中の人々と情報を共有することができます。人々の脳と脳を合わせたように、知恵と知識が集まって人々がより幸せになれる。ソフトバンクが掲げている理念が実現する社会になりつつあるのです。

インターネットの利用人口では、10年前はアメリカが50%でしたが、これからもうじき、アジアが50%を占める時代がきます。中でも中国の経済成長は目覚しく、まもなくGDPで日本を抜き世界2位になり、その勢いはアメリカを抜くところまで行くでしょう。つまりアジアを制するものが世界のインターネットを制するという時代が、間違いなくやってきます。これに対しソフトバンクグループでは、着実に布石を打っています。中国最大のオンラインショッピングサイト「タオバオ」や、中国最大のオンライン決済サービス「アリペイ」を傘下に持つ「アリババグループ」、中国最大級のソーシャルネットワーク「レンレン」を運営する「オーク・パシフィック・インタラクティブ」。これらはすべて、ソフトバンクグループです。さらには、中国No.1の携帯電話事業者である「チャイナモバイル」、ヨーロッパNo.1の「ボーダフォン」、アメリカNo.1の「ベライゾン」との4社で、合弁会社「JIL(Joint Innovation Lab)」を作り、世界10億人規模のモバイルインターネット戦略にも布石を打っています。

学生の皆さんへ

今日ご縁があって、これからソフトバンクの新卒社員として入る人もいます。あるいはそうでない人もいます。そうでない人にとっては、今日の皆さんとの出会いが、一生の中で最初で最後になるかもしれません。でもせっかくの機会で同じ場所にいる皆さんに、ひとつだけ覚えていてほしいことがあります。

それは、「皆さんが登りたい山を、この1年くらいで決めてほしい」ということです。残された年齢が少ないと、実現できる可能性がその分減ってしまいます。早く「志」を持つ者は強いのです。一回しかない人生を、無駄にしないでください。自分の登りたい山を決めないで歩くのは、さまように等しいのです。今日私が説明したすべてを忘れたとしても、たったひとつ、このことだけは覚えていてください。

今日ここにいる皆さん、「Twitter」で共有していただいている皆さん、「Ustream」を見ながら私の思いを共有していただいた皆さん、皆さんがなんらかの形で幸せになってくれればと思います。みんなが少しずつでもそういう気持ちを共有して、残りの多くの人々に幸せを提供できたら、人類がもっと平和になって、多くの人々がもっと幸福になれる。私はそんな世の中にできたらいいなと、心から思っています。

ありがとうございました。

(掲載日:2010年4月16日)

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