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アニュアルレポート 2021 トップメッセージ

「情報革命の資本家」として
AI起業家たちと共に未来を創る

ソフトバンクグループ(株)
代表取締役 会長兼社長執行役員

孫 正義

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ソフトバンクグループ=情報革命の資本家

この3~4年、「ソフトバンクグループとはなんぞや」ということをよく聞かれます。「事業家としての孫 正義は好きだけど、投資家としては好きじゃない」という声も耳にしました。「単なる投資家とは違うんだけどな」と思いつつも、ソフトバンクグループは投資会社だと説明を端折ってきました。一方で、本当の姿をどのように説明したらいいのかと、モヤモヤした気持ちを抱えていました。ですから、この機会に改めてソフトバンクグループを定義したいと思います。
それは、ソフトバンクグループとは「情報革命の資本家」だということです。

18世紀後半に英国で始まった産業革命は、蒸気機関による工業化を皮切りに、19世紀に各国でさらに進展を遂げました。それを牽引したのは、ジェームズ・ワットに代表される発明家たちです。ただ、発明家たちだけではなく、リスクを取って発明家たちに資本を提供したロスチャイルドに代表される資本家の存在も欠かせませんでした。例えば、蒸気機関の効率を大幅に高めたのはワットですが、ヨーロッパで鉄道が普及したのは、ロスチャイルドがリスクを取って莫大な資金を提供したからにほかなりません。このように発明家と資本家が一緒になって産業革命を牽引し、世界のGDPはその後、どんどん成長を続けていったのです。それから約200年経った21世紀の今、情報革命が大きく花咲こうとしています。情報革命において産業革命の発明家に相当するのがAmazonのジェフ・ベゾス氏、Appleのスティーブ・ジョブズ氏、Microsoftのビル・ゲイツ氏に代表される起業家たちです。そして産業革命と同じように、資本家が起業家に対して多くの資本を投入することで、情報革命が着実に進展しているのです。

ソフトバンクグループは、特に情報革命の最先端の部分であるAI(人工知能)分野に注力したいと考えています。おそらくAIの分野においては、ソフトバンクグループが起業家に最も多くの資本を提供していると自負しています。AIによって、自動運転、医療、金融、教育、小売などのあらゆる産業が再定義されようとしています。2021年6月18日現在、われわれはソフトバンク・ビジョン・ファンド1および2、そしてソフトバンク・ラテンアメリカ・ファンドを通じて合計264件(各投資委員会承認済みで投資完了前の44件を含む)※1に投資を行っています。投資先の多くがまだ利益を出していませんが、われわれが資本家としてリスクを取って投資を行っているのです。

産業革命で人力が機械に置き換わったように、情報革命では機械がAIに置き換わっていくでしょう。そして、産業革命ではロスチャイルドが資本家の中心でしたが、情報革命ではわれわれソフトバンクグループが資本家としてキープレイヤーになりたいと考えています。これこそが「情報革命の資本家」の意味するところです。

  • ※1:2021年5月末時点の投資先(SVF1 = JV/関連会社および全持分売却済み11社を含む92社、SVF2 = 72社、ソフトバンク・ラテンアメリカ・ファンド = 43社) + 2021年6月1日から6月18日の間に投資したSVF2の投資先(13社) + 2021年6月18日時点のSVF2の投資委員会承認済みで投資完了前の案件(44社)の合計。このうち投資完了前の案件は実現することを保証するものではなく、そのような計画は全て不確実性とリスクを伴います。投資完了前の案件が最終的にSVF2またはSBIAが将来運用するいかなるファンドによって取得されるという保証はありません。

直近ではソフトバンク・ビジョン・ファンドが最重要指標NAVの拡大を牽引

資本家であるソフトバンクグループにとって最も重要な指標はNAV(Net Asset Value、時価純資産)です。これは保有株式価値から純負債を差し引いたものです※2。多くの事業会社が純利益を重視していますが、資本家であるわれわれにとっては、それは最も重要な指標ではありません。NAVは日々上下しますが、2021年3月末時点では26兆円でした。過去20数年間を振り返ってみると、90年代後半から2000年代半ばにかけては日米ヤフーが、2006年からはソフトバンクモバイル(現ソフトバンク)が、2014年からは同年に上場を果たしたアリババがソフトバンクグループのNAVをそれぞれ牽引しました。そして直近では私自身が最も注力しているソフトバンク・ビジョン・ファンドが牽引しています。このように情報革命の変遷に合わせて、牽引役が切り替わってきたのです。

インターネットの揺籃期からさまざまな投資を行ってきましたが、当時は資本家というには十分な資金がありませんでした。それでも、日米ヤフー、アリババ、ソフトバンクモバイル、スプリント、スーパーセルなどに投資をしてきた結果、1994年から2021年までの27年間のIRR(内部収益率)は43%に達しています。
ソフトバンク・ビジョン・ファンドについては、2020年の前半ぐらいまでは思うような結果が出せず、「孫 正義の眼力はもう衰えた」「お金に目がくらんだ」とか、本当にけちょんけちょんに言われていました。しかしその後V字回復を果たした結果、ソフトバンク・ビジョン・ファンド1および2の2021年3月末までの普通出資IRRは43%※3と、ソフトバンクグループのほかの投資実績と同じく、胸を張れる水準になってきました。もちろん、名前を思い出すだけで恥ずかしくなるような投資もありましたが、そこから多くのことを学んで、次の投資判断に生かしてきました。そして実績はそれなりに付いてきたのです。

  • ※ 説明目的のために、各時期においてNAVの増加を牽引した主な資産でグラフを色分けしています。

  • ※2:保有株式価値と純負債の算出前提は、65ページをご覧ください。

  • ※3:普通出資IRR(Net Equity IRR(ソフトバンクグループ(LP) + 成功報酬)。SVF1および2の普通出資IRR43%は、ソフトバンクグループによるファンドへの投資開始以来の合算の投資成績を表したものです。
    普通出資IRR(LP Net Equity IRR)とは、管理報酬、成功報酬、優先出資持分に係る定率の固定報酬(Preferred Equity Coupon)およびその他の諸経費が支払われた後の普通出資持分に係る内部収益率を指します。2021年3月末時点での普通出資持分に帰属するリミテッド・パートナーからの資金拠出・分配、投資資金融資枠の実行額、投資関連の純資金調達額およびファンドの純資産価値を元に算出されています。普通出資IRR(Net Equity IRR (ソフトバンクグループ(LP) + 成功報酬))は、マネージャーとしての成功報酬(支払済み、未払い含む)の影響を調整した、ソフトバンクグループの普通出資持分に係る内部収益率(計算はLP Net Equity IRRと同様)を表しています。SVF1については、投資期間終了前に売却した投資案件に係る成功報酬は、全額支払いが行われており、クローバック条項の対象となります。2021年3月末時点でのSVF2の出資コミットメントは普通出資持分のみで構成されており、ソフトバンクグループが唯一のリミテッド・パートナーとなります。ファンドの投資成績は直近でファンドが一括でソフトバンクグループから取得した投資案件の成績を含めています。
    したがって、ここに示された投資成績は未実現である投資先の評価に基づくものを含めており、将来の成績を表すものではありません。ソフトバンクグループは今後類似する資産の一括でのSVF1もしくはSVF2への引き渡しを行う義務はありません。

資本家のゴールは未来の創造

投資家にとって最も重要なゴールはお金を作ることですが、資本家にとって最も重要なゴールは未来を創ることです。この2つは非常に似た言葉ですが、似て非なるものです。産業革命においては、ロスチャイルドは資本家として現在にまで至る(当時から見た)未来を、われわれの生活の礎を築いてくれました。
同じように、情報革命においてソフトバンクグループは資本家として人々のための未来を創ることを使命とし、その実現を目指しているのです。

当然、投資家と資本家では、その着目点も全く異なります。1994年から2021年までの世界の産業別の時価総額を見てみると、不動産業は5倍、小売業は8倍、金融業は12倍、製造業は13倍に成長しました。投資家にとっては、これらの各産業の株価に影響を与える金利、為替、雇用統計といった指標の日々の動きや当局の金融政策が重要で、それらを目を皿のようにして見ながら意思決定をしています。しかし、未来を創ることを目指す資本家は、10~30年というスケールでものを考えるべきですから、こうした指標は必ずしも重要ではありません。資本家として私が見ているのは、テクノロジーがどのようにパラダイムシフトを起こしていくのかということです。インターネット揺籃期においては、ほとんどのインターネット企業が利益を出していませんでした。しかし、われわれはリスクを取って、そこに何十億、何百億円というお金を投じたのです。当時、利益を出していない企業への投資は普通の人の理解を越えていて、米国ですら「日本から最後のバブル男が来た」などと批判を浴びました。しかし、情報革命の進展を追い風にして、インターネット業界は、先ほどと同じ1994年から2021年までの期間に年平均成長率34%、2000倍も伸びたのです。つまり資本家は未来を創るためにより大きなリスクを負う分リターンも大きいものですが、実際にこうして大きなリターンを得ることができたのです。しかし、情報革命はまだ始まったばかりです。AIによってインターネット業界の時価総額の拡大がまだまだ続いていくと見ています。

Vision Capitalistとして「情報革命で人々を幸せに」を実現

産業革命においては、発明家と資本家がビジョンを共有して未来を創りました。情報革命、特にAIが牽引する情報革命においては、AIを駆使する起業家とわれわれ、ソフトバンクグループがビジョンを共有して、一緒に未来を創っていくんだと志しています。例えばAIを使った自動運転が普及すれば交通事故のない世界が訪れるでしょう。また、AIによる解析で医学が劇的に進化すれば病死のない世界が、AIを使った遠隔教育が普及すれば子供たちが格差なく教育を受けることができる世界が訪れるでしょう。日々の生活においてもお金の使い方や仕事の仕方、余暇の過ごし方などが劇的に変わり、AIによって全く新しいライフスタイルが今まさに始まろうとしています。

最近「ソフトバンクグループはVC(ベンチャーキャピタル)なのか」と聞かれることがあります。わかりやすくいえば巨大なベンチャーキャピタルなのかもしれません。でも私は、ソフトバンクグループをベンチャーキャピタルと定義するのも、ちょっと構えが小さいんじゃないかなと思うんですね。同じVCでも、ソフトバンクグループは数十年のスケールで情報革命の未来を創るVision Capitalだと考えています。われわれの経営理念である「情報革命で人々を幸せに」に込めた思いは、業態が何度も何度も変わろうとも、40年前の創業一日目から一度も変わっていません。情報革命の資本家、Vision Capitalistとしてこの理念を実現していきます。

Q. 自社株買いについてどのように考えていますか。

A:2020年3月に合計2.5兆円の自社株取得プログラムを発表し、2021年5月までに完遂させたことは、多くの株主・投資家の皆様に評価いただけたと考えています。株主還元の一つとして自社株買いは重要なテーマとして常に頭の中にありますし、経営陣で議論を続けています。ただ、いつ、どのくらいの規模を行うかは、その時々のわれわれの財務の状況や投資機会といったさまざまなバランスを見ながら考えていかなければいけないので、この先、いつ実行するのかははっきりと言えません。

私自身、ソフトバンクグループの筆頭株主であり株価は大事だと考えています。また、資本家としてのソフトバンクグループは、NAVこそが一番重要で、1株当たりのNAVとソフトバンクグループの株価の差(ディスカウント)が減っていくよう私を含めた経営陣が一生懸命努力しなきゃいけないし、また株主の皆様にもそれが理解され、評価されるように頑張るのが、私どもの責務だと思っています。

ただ、過去を振り返ると、2011年以降に行った自社株買いは、2020年3月以降に実施した2.5兆円を含めて累計3.8兆円に上ります。配当と合わせた総株主還元はかなり高い水準だと考えています。株主の皆様には、もう少し長い目で見ていただければと思います。自社株買いだけに関心が集まって、「もうやらないのか」「次はどのぐらいやるんだ」と、そればかり気にされるのは悲しいことです。

Q. 後継者への継承についてどのように考えていますか。

A:大学在学中の19歳のときに「人生50カ年計画」を立てました。それは、「20代で名乗りを上げる。30代で軍資金を貯める。40代でひと勝負かける。50代で事業を完成させる。60代で次の世代に事業を継承する」というものです。この5つのステージのうち、一番難しくて一番大切なのは最後の次の世代への事業の継承だと19歳のときから言っていました。
創業者としての使命は、会社が長く続くような仕組みをつくっていくことです。ソフトバンクグループが300年成長し続けられるよう、この事業の継承にはしっかりと取り組んでいきます。

一方で、最近は医学が進んだ上に、私自身やる気にあふれていることから、予防線の意味も込めて「69歳を過ぎても社長をやっているかもしれない」と言い始めています(2021年6月末現在:63歳)。あるいは、社長は後継者に引き継ぎつつ、会長として引き続き経営に深く関わっているかもしれません。いずれにしても、後継者にうまくバトンを引き継ぐことは最重要テーマであり、60代のうちに後継者にある程度の目星を付けて、経営のかじ取りを徐々に引き継いでいかなければならないと考えています。

2021年7月
ソフトバンクグループ株式会社
代表取締役 会長兼社長執行役員
孫 正義

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