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GCOメッセージ—ソフトバンクグループレポート 2022

「志高く」
世界水準のコンプライアンス、
ガバナンスの実現へ向けて

ソフトバンクグループ(株)
執行役員 CLO 兼 GCO 法務統括

ティム・マキ

GCO / CLOへの就任

弁護士になる前、私は日本の大学で勉強した後、(株)福岡ドームで数年間マーケティングを担当していました。ソフトバンクがホークス(現福岡ソフトバンクホークス)を買収する前のことです。その後、米国系法律事務所で弁護士としてのキャリアをスタートし、日本の商社や電力会社などの案件や、M&A、キャピタルマーケット、プロジェクトファイナンス案件などを担当したほか、いくつかの大型テーマパーク開発に関する案件も手掛けました。

ソフトバンクグループには2017年からの出向を経て法務副統括として入社し、2020年9月にグループ・コンプライアンス・オフィサー(GCO)、同年12月にチーフ・リーガル・オフィサー(CLO)に就任しました。グループ全体の法務・コンプライアンスの責任者であることはもちろん、日本語と英語のバイリンガルとして、ソフトバンクグループの事業戦略や企業文化を深く理解し、同時に海外拠点とも日々密接な連携を図るアンバサダーとしての役割が求められています。間違いなくエキサイティングな仕事であり、時々ジェットコースターのように感じられることもありますが、元々テーマパーク案件を数多く経験してきた私には慣れたものです(笑)。

コンプライアンスの課題の一つとして、GCO就任後に私が実施した最初の取り組みをご紹介します。入社当時、コンプライアンスは法務部の一つのグループでしたが、GCOに就任した後、私はコンプライアンスの重要性や責任を重視し、法務から独立した部署としてコンプライアンス部を設置し、その担当分野を広げました。

ソフトバンクグループの強み

ソフトバンクグループのコンプライアンス面での強みの一つは、社員が皆ここで働いていることを誇りに思っていることです。これは、インテグリティーを追求するために必要なことだと思っています。また、私は自分のチームにいつ も「Here’s how.(こうやればできる)」というマインドセットを持つことが大切だと伝えています。自分が誇りを持って「ソフトバンクのため」に常に考え、ビジネスサイドに対しても必ずしも最初から「No」と決めつけず、何が「正しい」ことなのかを考え、「この方法ではできないが、この方法ならOK」というように提案させるようにしています。もちろんコンプライアンスの観点から「No」と言うべきときははっきりと「No」を示すことが大前提ですが。

コンプライアンス強化に向けた取り組み

私たちの子会社の中には、英国FCAの認可および規制を受けるソフトバンク・ビジョン・ファンドを運営するSBIAや上場子会社など、規制上やその他の理由で各社の独立性を保つ必要がある会社も複数あります。それらの子会社の独立性を最大限尊重しつつ、当社のほとんどの投資を子会社に委託している現状を踏まえて、子会社との連携を強化し、グループとして一貫性のあるコンプライアンスプログラムを作るべく取り組んでいます。この取り組みは非常に効率的に進められています。また、子会社で素晴らしいコンプライアンスプログラムがあれば、それをグループ全体に広げていく取り組みも行っています。

インサイダー情報の管理体制の強化は、こうした取り組みの成果の一つです。元々、一部の規制対象となっている子会社で採用していたインサイダー情報の管理体制をベースに、 world classのルールやシステムをグループ横断的に導入し、インサイダー情報の管理体制をさらに強化しました。

また、利益相反取引の管理も重要なテーマの一つです。当社取締役の利益相反取引は、日本法に従い取締役会で必ず詳細にわたり検討を行い、決議をしています。つまり、外部弁護士のご意見などを頂いた上で、利益相反取引に該当すると判断したら、執行側が勝手に実行することはできず、その合理性、適切性、必要性をきちんと説明した後で、取締役会で審議・決議するというプロセスを毎回実施し、当該取引を実行するかどうかを決定しているのです。

マーケティングの視点でコンプライアンスに取り組む

弁護士事務所勤務時代の話になりますが、私は「Tim’s Times」というニュースレターをクライアントにメールで定期的に配信していました。面白くないニュースレターは誰も見ませんので、読者に関心を持ってもらえるような工夫を心掛けていました。

これはコンプライアンス研修でも同じことがいえます。今は社内でアニメーション動画などの視覚的なメディアを用いたコンプライアンス研修にも取り組んでいますが、見て面白くて頭に残るテレビコマーシャルのようなものでなければならないと思います。ある意味マーケティングと同じ発想が必要なのです。はっとした瞬間にコンプライアンスの研修を思い出してもらえるようにしなければなりません。一例をあげると、経理統括(常務執行役員 君和田 和子)に社内の有志の方と共に声優としてある研修動画に出演してもらいました。孫社長にもこのビデオを見せたところ、「これは面白い! 」と言ってコンプライアンス意識向上に役立つと喜んでいました。実際、社員を声優に起用することでかなりの反響がありましたし、インパクトがあれば研修の価値も上がります。

「志高く」の浸透

私たちの行動規範のタイトルである「志高く」という孫社長の考え方は多くの社員に伝わっていると思います。一方で、「志高く」を正しく、より深く理解させることが課題だとも感じています。「志高く」や「情報革命で人々を幸せに」という理念は日本語では理解が容易かもしれませんが、海外の文化によっては異なる捉え方がありえます。これだけ早くグローバル企業へと変化したので、グローバルでの共通認識をもっと浸透させていくことが大切です。

「志高く」の英訳は「Aim High」としていますが、正直に言うと、この英訳だけでは孫社長の考え方が十分伝わっていないと感じることがあります。「志」という言葉には社会貢献といった意味もあり、それは武士のように自分の人生の道を作り上げ、社会全体のために貢献するといったニュアンスも含まれます。英訳の「Aim High」では、こうしたマインドセットを正しく表現することができていないので、それぞれのカルチャーによってさまざまな解釈がなされてしまっていると思います。例えば、「Aim」とは自己中心的な「Aim」、会社の「Aim」、社会の「Aim」などすべて含む言葉ですし、「High」も「High profit」、「High return」、「High integrity」、「High performance」など考えられますから、カルチャーによっていろいろな「Aim High」の解釈があります。

昨年私が数社の子会社に出張した際、法務やコンプライアンス部門のメンバーに「志」の意味を説明しました。「この漢字は『武士(サムライ)』を意味する部分と『心』を意味する部分でできているんです」「それではサムライとは何か知っていますか?」といったところからです。こうした漢字の成り立ちを知ることが、「志高く」の本当の意味を理解することにつながるのではないでしょうか。「志高く」という考え方は、より良い社会(そして企業文化)をつくることを目指すことであり、これはソフトバンクで働く一人ひとりの人生の目標にもなりうるものだと思います。

300年続く企業グループにレガシーを残したい

私たちの中長期の目標はworld classのガバナンスと最高水準のコンプライアンス文化をソフトバンクに根付かせることです。そのためには、役職員一人ひとりが「Create a legacy(レガシーを残すこと)」が重要であると考えています。私も在任中にGCOとしてのレガシーを残し、次のGCOに引き継ぐときには自分の仕事を誇りに思えるようにしたいのです。少なくとも自分が担当する業務をレベルアップしていくことが大切です。ソフトバンクグループが300年後も存続することを考えると、私や現在の従業員が働いている期間はほんのわずかですが、この時期に世界最高水準のコンプライアンスやガバナンスの体制を整えてくれた人たちがいたと、数十年後の従業員が思ってくれれば素晴らしいことだと思います。そんな気持ちでわれわれはこれからも志高く仕事に取り組んでいきたいと思います。

  • 「ソフトバンクグループレポート 2022」は2022年7月27日に発刊しました。

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