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トップメッセージ—ソフトバンクグループレポート 2022

LTVを死守しながら進化に投資

ソフトバンクグループ(株)
代表取締役 会長兼社長執行役員

孫 正義

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ソフトバンクグループの株価
=NAV
=インターネット・トラフィック

ソフトバンクグループの株価は、ちょうど1年前の2021年6月24日の時点を100とすると2022年6月23日現在65まで下がっています。同じ期間で見ると、中国企業の米国預託証券(ADR)などで構成されるNASDAQゴールデン・ドラゴン中国指数は55、NASDAQ総合指数は78までそれぞれ下がっています※1。ソフトバンクグループが現在保有している資産の大半は、米国と中国を中心とする世界中の企業の株式ですから、世界の株式市場が低迷する中で、それにつられてソフトバンクグループの株価も下がっているという状況です。

こうした状況下で、明日や来週の株価、来年の株価がどうなるのかを当てるのは難しいのが現実です。ただ、長期のトレンドとなると話は違ってきます。グラフを見ると、ソフトバンクグループの株価(灰色)は、東証一部に上場した1997年度から現在まで、激しく上下しながらも、俯瞰して見ると右肩上がりに、かつ、NAV(Net Asset Value、時価純資産;青色)の成長に絡むような形で推移してきたことがお分かりいただけると思います。NAVとは、保有する株式の時価から借入を差し引いたものです。われわれはAIの会社にリスクを取って投資を行い、人々のための未来を共に創る「情報革命の資本家」です。われわれの事業はそうした投資を通じて保有する株式価値を増大させることですから、株価がNAVに比例して推移するのは当然のことです。ですから、ソフトバンクグループの株価を占うには、そのNAVが増えるのか減るのかを考えればよいのです。

そして、ソフトバンクグループのNAVはインターネット・トラフィックに比例して推移しています。なぜかというと「情報革命の最先端と共に歩んでいく」「情報革命の最先端の企業の株式だけを持つ」、この一本に決めているからにほかなりません。われわれは創業以来、情報革命の進化と共に歩んでいます。ですから、インターネット・トラフィックが伸びれば、つまり、情報革命が進んでいけば、自ずとソフトバンクグループのNAVは増えていくのです。私は創業以来一度たりとも迷ったことはありません。「情報革命は必ず来る」「インターネットのトラフィック、ユーザー数、利用度合いは必ず増え続ける」ということを信じて、その最先端のみに興味を持ち、頭を集中し、力をすべて注ぎ込んでいるわけです。時には失敗もします。振り返れば、大いに反省すべきこと、恥ずかしいこともいっぱいありました。でも、信じる気持ちは変わっていません。インターネット・トラフィックは今後も必ず伸び続けていき、情報革命は進展し、その最先端であるAIは進化し続けていくのです。

ソフトバンクグループのNAV
  • ※1:S&P Capital IQ、Bloomberg

進化に投資―2つの成長エンジンはソフトバンク・ビジョン・ファンドとアーム

われわれは進化に投資しています。進化を信じて、進化のビジョンを信じて、その進化の最先端の企業に資本家としてリスクキャピタルを提供しているわけです。世の中には進化に逆張りする投資家もいます。自動車が馬に勝つに決まっているのに、それを「また馬の時代が来るかもしれない」というのは、へそ曲がりだし、いずれ破滅することになるでしょう。私は素直に進化に順張りで投資を行っています。

具体的には、今情報革命の最先端にあるAIを活用した企業に投資を行っているソフトバンク・ビジョン・ファンド、そしてあらゆる技術革新を牽引していくアームの2つに集中しています。われわれにとって大きな成長エンジンは間違いなくこの2つなのです。

ソフトバンク・ビジョン・ファンドは、AIを活用してさまざまな技術革新を起こすユニコーン※2、またはユニコーンとなる可能性があると判断される企業を世界中から見い出して投資を行っています。世界中のAIユニコーンの3分の1ぐらいに投資する、世界最大※3のAIユニコーンの資本家です。情報革命の、インターネット革命の最先端の領域のみに集中しており、現在の投資先は475社※4にも上ります。

次にアームです。アームは半導体のIP(プロセッサーの設計情報などの知的財産)のライセンス事業を行う企業で、スマートフォンの急速な技術革新を牽引してきました。アームのテクノロジーが採用されたチップの出荷数(累計)は、インターネット・トラフィックの伸びに比例して一貫して伸び続けてきました。現在ではスマートフォンを中心とするモバイル端末市場のメインプロセッサーで95%のシェアを持っています※5

そして、これからはスマートフォンだけではなく、あらゆる技術革命をアームが牽引していきます。具体的には1つ目にクラウドの分野が挙げられます。以前はアームのシェアはほぼ0%でしたが、われわれが同社を2016年に買収してからクラウド用の新プロセッサー設計に係る研究開発に力を入れた結果、クラウドのNo.1企業であるAmazon Web Servicesが最先端のクラウドサーバー用チップにアームのテクノロジーを採用し始めています。その他のクラウド企業でも続々とアームのテクノロジーの採用が始まっており、シェア拡大が続いていくでしょう。クラウド企業がアームのテクノロジーを採用するのは、アームベースのCPUを使えば、他社のものに比べて消費電力をはるかに少なくすることができるからです。クラウドの最大のコストはチップでも人件費でもなく電気代ですから、競争力に直結します。電気代が大幅に減らせる上に演算処理能力でも見劣りしません。現に世界のスーパーコンピューターの性能ランキングでトップ※6に立つ「富岳」(理化学研究所と富士通の共同開発)のCPUにはアームのアーキテクチャーが採用されています。

2つ目は自動車の分野です。従来はガソリンエンジンを中心とするハードウエアが自動車の性能と品質を決定する最も重要な要素でしたが、EV(電気自動車)化とスマート化の進展とともに産業構造が転換しつつあります。電気自動車は部品の点数がガソリン車の3分の1ほどで、総コストの40%が電池です。また、自動運転を行うには、車載カメラの映像などを分析し、周囲の人や物体を認識した上でブレーキやハンドルなどを操作するテクノロジーが必要であり、自動車そのものが走るスーパーコンピューターになりつつあります。このため、スマートフォンやクラウドと同様に、はるかに少ない消費電力で優れた演算処理能力を発揮できるアームベースのテクノロジーを多くの企業が採用しているのです。

3つ目はIoT(Internet of Things 、モノのインターネット)の分野です。IoT機器は常に電力供給が行える場所で利用されるとは限らないことから、いかに少ない消費電力で稼働させられるかが鍵になります。われわれが買収した直後から、アームのシェアは順調に拡大しており、No.1※7となっています。今後もさらにシェアが拡大していくでしょう。

こうしたことからお分かりいただけるように、アームは情報革命の最先端で、情報革命のエンジンといえる存在です。いずれ当社グループの中核の中の中核になると思っています。すでに上場準備に入ったことを発表していますので、ぜひ楽しみにしながら見守っていただきたいと思います。

  • ※2:投資時点で企業価値が10億米ドルを超えると評価される非上場企業

  • ※3:2021年における各投資家がリード投資家を務めた案件のベンチャーキャピタル年間投資額に基づきます(複数の投資家が共同でリードを務めた案件を含みます)。PitchBookを基にした当社の推計です。

  • ※4:2022年3月末現在の投資先(SVF1 = JV/関連会社および全持分売却済み14社を含む94社、SVF2 = 全持分売却済み1社とPolygon(MATICトークンの購入による投資)を含む252社、LatAmファンド = 103社) + 2022年4月1日から2022年5月6日の間に投資したSVF2の投資先(11社) + 2022年5月6日現在のSVF2の投資委員会承認済みで投資完了前の案件(15社)の合計です。

  • ※5:スマートフォンとタブレットのアプリケーションプロセッサーにおける2021年の年間マーケットシェア(数量ベース)。アームによる推定です(2022年4月提供)。

  • ※6:HPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)に関する国際会議「ISC 2022」において発表された、実際のアプリケーションでよく用いられる演算の性能を測る「HPCG」とグラフ処理の能力を測る「Graph500」で1位を獲得しました。

  • ※7:産業向け・IoT製品向けの組込型チップおよびIoTチップにおける2021年の年間マーケットシェア(数量ベース)。アームによる推定です(2022年4月提供)。

インターネット業界の時価総額は調整を乗り越えて拡大

「ソフトバンクグループの株価は上がるのか」という株主や投資家の皆様からの問いに一言で答えるなら、「上がる」と信じています。もちろん下がる時もあります。ですが、5年、10年の単位で見れば、かなり自信があります。

例えば、世界のインターネット業界の時価総額※8は、1994年を1とすると、インターネット・バブルに伴って2000年には30にまで急拡大しましたが、2001年にはバブルが崩壊し、10にまで急落。しかしそれから10年たたずして100に成長。2008年のリーマン・ショックで半分の50にまで下がりましたが、2021年には2,400になったのです。結果的に、1994年に1だったものが2021年には2,400になったのです。

ちなみに、1994年に上場(店頭公開)したソフトバンクグループの株価は、インターネット・バブルで急伸したものの、バブル崩壊時にはピークの100分の1になりました。しかし、そうした中でも生き延びることができたのです。そして今、ソフトバンクグループのNAVは18.5兆円※9(2022年3月末現在)になっているわけですから、かなり伸びたといえると思います。このように長期で見ると物事の迷いが減ってくるはずです。

そして今、ロシアによるウクライナ侵攻に伴う対ロシア経済制裁を機にエネルギー価格が急騰し、また米国においてインフレ抑制のための金融引き締めが始まったことやコロナ禍におけるサプライチェーンの混乱も相まって、世界的に景気減速の懸念が高まっています。こうしたマクロ経済の逆風に伴い世界のインターネット業界の時価総額は足元で2,400から1,400にまで下落しています(2022年6月17日現在)。振れ幅で見ると、大変ショックを受けるかもしれませんが、インターネット・バブル崩壊の時には3分の1に、リーマン・ショックの時には半分になったことを考えれば、今回はまだ半分にもなっていないじゃないかと思えるわけです。大規模な株価の調整は3回目ですが、これから再び伸びることを信じて疑っていません。私の信ずること、ビジョンは微動だにしていません。なぜならば、情報革命は始まったばかりで、これからが本番だと思っているからなのです。

世界のインターネット業界の時価総額
  • ※8:1994年12月末を起点としてS&P Capital IQを基にした当社の推計です。為替レートは各四半期末時点としています。

  • ※9:詳細は18~19ページをご覧ください。

リスク対応の鍵は適切なLTV管理

進化に順張りだと言っても、現在のように世界の株式市場が下落する局面では、さらに下がるかもしれないという懸念は当然あります。ですから、さらに下落が続いた時のリスクへの対応も怠っていません。一言で言うとLTV(Loan to Value 、保有資産に対する純負債の割合)です。このLTVを平常時は25%未満、異常時でも上限35%に抑えようという財務方針です。LTVが上がりすぎないようにするためには、保有資産の適切な資金化を行うとともに、環境が不透明な時には厳選して投資を行えばいいのです。

実際、2021年12月末には、世界の株式市場が低迷してわれわれの保有株式価値が減ったので、純負債が増えていなくてもLTVが上昇し、21.6%まで悪化しました。このままでは25%を超えかねないと判断して、2022年3月末には20.4%※9にまで改善させたのです。総負債を減らしたわけではありませんが、適切な資金化と投資の厳選を機動的に行った結果、LTVが改善するとともに手元流動性が大幅に手厚くなりました。この手元流動性もリスク対応策として非常に重視しており、少なくとも2年分の社債償還資金を手元資金として保持するということがLTVと並ぶもう一つの財務方針です。今は環境が不透明ですから、今後2年間の社債償還に必要な1.3兆円を大きく上回る2.9兆円※10もの手元流動性を確保しています。

  • ※10:手元流動性=現金及び現金同等物+流動資産に含まれる短期投資+コミットメントライン未使用枠。ソフトバンクグループ単体ベース(SB Northstarを除く)

やる気満々、自信満々、夢満々

われわれの情報革命への確信はゆらぎません。今後もわれわれは進化への投資を続けていき、逆張りは絶対にしません。そして、リスクへの対応策としてLTV25%未満を死守していきます。つまり、ビジョンは微動だにしないけれども用心深く運用していくということです。

10年後、15年後、30年後、50年後のソフトバンクグループを見ていてください。情報革命は始まったばかりです。これからがソフトバンクグループの本番、これからがやりたかったこと、見せたかったこと、証明したかったことの本番だと、私は思っているのです。「情報革命で人々を幸せに」―ゆらぐことのないこの経営理念の実現に向けて、やる気満々、自信満々、夢満々なのです。

2022年7月
ソフトバンクグループ株式会社
代表取締役 会長兼社長執行役員
孫 正義

  • 「ソフトバンクグループレポート 2022」は2022年7月27日に発刊しました。

  • 本ページにおける社名または略称はこちらよりご確認ください。

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