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社外取締役メッセージ—ソフトバンクグループレポート 2024

AI革命のもたらす事業機会を
組織の「忍耐力」で
最大化していく

ソフトバンクグループ(株)
社外取締役 独立役員

デビッド・チャオ

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多様なバックグラウンドを持つ取締役による活発な議論

私とソフトバンクグループのつながりは、孫さんに初めてお会いした23~24年前に遡ります。当時、私はすでにDCMベンチャーズを立ち上げて日本・米国・中国のテクノロジー企業に投資をしていました。そのころのベンチャーキャピタル(VC)は、米国なら米企業に、日本なら日本企業にと、まるで「サイロ」のように自国企業に投資する傾向が強く、私は常々このサイロ思考には限界があると感じていましたので、私と同じようにグローバル視点で投資を進めていた孫さんとは、意見交換をするたびに気が合うなと感じたものです。2年前、ソフトバンクグループの社外取締役に就任しましたが、経営上の意思決定を監督するという一般的に求められる役割に加え、これまでシリコンバレーやグローバル投資で培った経験をソフトバンクグループの企業価値向上へ生かしていくことも、自身に期待されている役割と認識しています。

取締役会では戦略的な内容も含めてさまざまな議題についてしっかりディスカッションを行っています。しかし、ソフトバンクグループ特有で非常に良いと思うのは、取締役会の後に必ず、取締役だけが集まって2~3時間、インフォーマルな形で議論するところです。そこでは孫さんのビジョンや新しいプロジェクト、マーケットの見方など、さまざまなテーマについて自由に意見交換が行われ、時に議論が白熱することもあります。私にとっては、このインフォーマルな場も、ソフトバンクグループの取締役会の役割の一部を担っていると感じます。というのは、このようなインフォーマルな場で共有し議論した内容をベースに、取締役会で決議する個々のアジェンダに関してもより踏み込んで発言し合えるからです。孫さんはよく、サプライズ的に新しいアイデアを出してきますが、そのアイデアの基本となる考え方についてフリーディスカッションの中で議論をしているので、「このアイデアは、この部分にはまるんだな」とすぐに理解できます。

取締役会がさまざまな業界経験を持ったメンバーで構成されていることで、非常にインタラクティブな議論が展開できるのも良い点です。取締役会は多様であればあるほど良いという考えは、誰もが共通認識として持っています。現在、私たちが目の当たりにしているAI 革命は、産業革命やモバイル革命以上に大きな影響を世界中の人々に与えることになるでしょう。この前例のない革命に対応するためには、多様なスキルセットと専門性が不可欠であり、私たちは今後もさらに向上していけると信じています。

また、ユニークな起業家・孫さんのサクセッションプランも一つの課題ではありますが、目の前で急速にAI 革命が起きている今のタイミングは、ソフトバンクグループの今後の成長にとって非常に重要な時期であり、創業者である孫さんの迅速な意思決定と、組織としての俊敏かつ柔軟な行動が何よりも求められます。通常、企業は大きくなるほど、俊敏性や柔軟性が失われ、このため小規模で機敏なスタートアップが時に大企業を打ち負かすことがあります。しかし、孫さんは長年にわたって、非常に大きな組織であるソフトバンクグループを率いながら、同時に機敏であり続けられることを証明してきました。孫さんの後継者を見つけるのはそう容易なことではなく、サクセッションプランの必要性も理解していますが、この重要な瞬間において、私たちの優先事項は、優秀な人材を集め、機敏な創業者であり会社の魂でもある孫さんのリーダーシップのもとで持続可能な成長を確保することだと思います。

ベンチャー投資に求められる「忍耐力」

私が取締役会などで意見を申し上げるのは、テクノロジーのトレンドに関する内容が多いです。加えて、私自身が起業家とVCの双方の経験がある立場として、「忍耐が必要」ともよく申し上げます。ベンチャー投資は、アーリー、ミドル、レイトステージで全く特性が異なります。就任してすぐは、多くの投資がそこそこうまくいくだろうという見解を持っている人たちがいることに驚きました。この期待と迅速な結果を求める傾向には対処が必要でした。ベンチャーの世界では、早期に倒産するスタートアップは投資サイクルの初期段階で現れます。対照的に、長期的に成功する企業は成熟するのに時間がかかり、勝者が明らかになるまでに多くの年月が必要です。野球でいうなら、三振もヒットもあるし、そして時々、創業からIPOまで15年かかったアリババのような満塁ホームランが出るものです。ベンチャー投資においてはこのことを理解し、長期間、組織として「忍耐強く」あらねばなりません。

一般にベンチャーキャピタルのリターンは「Jカーブ」を描くといわれており、通常、最初の3~4年のIRRはマイナスです。たまたまこれまでソフトバンク・ビジョン・ファンドの投資先の中で、早期に結果を出した企業があったことで、本来なら辿る典型的な「J カーブ」が見えにくくなっているのですが、「Jカーブ」の上昇トレンドが現れるまでには長い時間がかかります。投資先の中には有望な企業もあり、いずれホームランも出てくると思います。しかしそこまでには時間がかかるということを、社外のステークホルダーにもご理解いただけるようコミュニケーションし、また社内においては忍耐強く投資先をサポートし続けることが重要です。その結果、投資した数百社のトラックレコードから成功のトレンド、注力すべき企業や領域が見えてくるでしょう。成功例だけでなく、失敗例からも多くを学び、新たなことへのチャレンジ、そして成功へとつなげてほしいと思います。

今後のVC市場を俯瞰すると、AIを除く業界は今、底を打つ1年前くらいに位置しているという感覚でいます。1年から1年半前に資金調達が難しく市場が低迷していた時期に、多くの既存投資家が、ブリッジローンや追加ラウンドの形で評価額を支えるために追加投資を行いました。当時は、企業が1、2年生き延びるための資金を追加ラウンドで提供し、その後の成り行きを見守ることが業界のスタンダードともいえる状況でした。このため、今後1年から1年半の間に、生き残れる企業とそうでない企業とで明暗がはっきりしていくと考えます。いずれにせよドットコムバブルのとき同様、一度落ちたマーケットの回復には3年から4年はかかるでしょう。

一方で、AI 企業はというと、良いチームであれば、しっかりと資金も動き、バリュエーションも保っています。それでも今後2年くらいのスパンでは、AI の中でも成長する領域とそうでない領域とが色分けされてくると思いますので、ビジネスモデルとして成長を期待できる企業を選別していく時期になります。

ソフトバンクグループのユニークさは、「Reinvent」する力

孫さん、そして彼が創業したソフトバンクグループは、時代に合わせて大胆に変化し、そして新たな分野で成果を出す力=「Reinvent」する力が突出していると感じます。最初はソフト卸売会社、そしてPC、インターネット、モバイル、そして今のAIと、全く異なる分野で何度も何度も新しくビジネスを創ってきました。これまでに多くの成功したテクノロジー分野のCEOや企業と共に仕事をしてきましたが、孫さんと彼のチームのように絶えず革新を続ける能力を持つ人々は非常に稀です。新たなビジネスにチャレンジし、成果を出すだけでも至難の業ですが、孫さんは「Reinvent」したビジネスを何度も成功させてきました。先日上場したアームもその一例です。組織としてのソフトバンクグループには、そうして新しいことにチャレンジしようという風土が根付いています。先は見えなくても、新たなビジネスを作って社会に貢献していこうという気概に満ちています。

AI時代におけるソフトバンクグループの成長機会

AI は今、「機械学習」と「生成AI」に大別されます。ソフトバンクグループは過去6~7年の「機械学習」の進化の過程からAIに携わっていたため、「生成AI」の到来にも、時機を逸することなく俊敏に動くことができたと思います。まさに、「成功は用意された心のみに宿る」という言葉の通りだと感じています。

これまでのテクノロジー革命を振り返ると、コンピューター(メインフレーム、クライアントサーバー、そしてPC)、インターネット、モバイル、そして今のAIと4つの波がありました。PCは今や個人でも手軽に購入できるようになりましたが、PC市場の発展は当初B2Bが主導する形でスタートしたのです。一方で、インターネットとモバイルの伸長は、B2Cがリードしてここまで普及しました。では4つ目の波であるAI はどう発展していくか。コンピューター革命と同様に、AIもまずはB2B 分野で付加価値を生み出し、そこから大きく飛躍すると私は予想しています。この観点から、テクノロジーの成長が当初B2Bに集中していたコンピューター革命を孫さんご自身が経験していることが、今後の成長機会を捉えていく上で大きな強みとなるでしょう。

すでにAI 領域で今後の中核プレーヤーとなる企業が6~7社見えてきており、その中核プレーヤーの周りに、次世代のAIエコシステムも構築されつつあります。アームも中核プレーヤーの1社ですが、当初からエコシステムを作ることで自社を強化していくビジネスモデルで、モバイルや自動車、サーバーなどの幅広い分野に拡大してきました。このエコシステム型ビジネスモデルはアームのDNAに深く根付いており、今後もアームの競争優位性を維持し、成長を加速させる原動力となるでしょう。今このタイミングでAI の基盤となる技術を提供しているアームを保有するソフトバンクグループは、今後の成長機会を捉えAI 時代をリードしていく上で良いポジショニングができていると思います。

  • 本ページにおける情報は2024年7月29日現在のものです。

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