株主・投資家情報(IR)

トップメッセージ—ソフトバンクグループレポート 2024

人類の進化のため
ASI(人工超知能)を実現

ソフトバンクグループ(株)
代表取締役 会長兼社長執行役員

孫 正義

役員略歴 →

「進化と増殖」で株主価値を最大化

私は、保有株式価値から純有利子負債を差し引いて算出される株主価値、つまり最重要指標として掲げているNAV(Net Asset Value)を毎日欠かさず見ています。ソフトバンクグループにとって大事なのは、このNAVをいかに最大化するか、です。では、そもそも論になりますが、NAVを増大させるにはどうすればいいでしょうか。私は「進化と増殖」に尽きると考えています。「進化」とはビジネスモデルを進化させてほかにはないモノをつくること、「増殖」とはそれを営業力で売りまくるということです。

振り返ってみると、1981年の創業から43年間にわたって進化と増殖を繰り返してきました。第1ステージは、祖業であるパソコン用パッケージソフトの流通や1996年に設立したヤフー日本法人です。パソコン時代の到来を先取りしたものでした。第2ステージは、パソコン時代からモバイルインターネット時代への進化に合わせたものです。2001年にブロードバンドサービス「Yahoo! BB」を開始した後、その勢いのまま2006年にボーダフォン日本法人を買収して携帯電話事業に参入し、2008年から「iPhone」を日本のキャリアとして唯一販売し契約件数を大幅に拡大させました。第3ステージは米国通信事業への進出で、2013年にスプリントを買収しました。同社は合併を経てTモバイルとなった後、今では時価総額で世界一※1の通信会社となり、われわれはその大株主となっています。第4ステージはアリババです。米国や日本で普及していたインターネットサービスを中国に持ち込み、創業者であるジャック・マー氏とのパートナーシップの下で進化させ、増殖させていきました。第5ステージは、AI(Artificial Intelligence:人工知能)時代の到来をいち早く予見して、2017年に活動を始めたソフトバンク・ビジョン・ファンドです。

そして、今まさに進行中の第6ステージが2016年に買収したアームです。2023年9月の上場後同社の株価が上昇したことで、当社のNAV(図1参照)は2023年3月末の14兆円から2024年3月末には28兆円、同年6月20日には34兆円(プロフォーマ)に急拡大しました。アームは、2016年9月に約40%※2のプレミアムを付けて3.3兆円で買収しました。当時はプレミアムを払い過ぎだと批判もされましたが、結果的に今では24.6兆円ものリターンとなっており、MOIC(Multiple of Invested Capital:投下資本倍率)は10倍です(いずれも図2参照)。買収直後にエンジニアの人数を倍にする方針を打ち出したものの、売上はすぐには伸びないので経費の分だけ利益が急落し、多くの方から心配されました。しかし、このエンジニア増員による研究開発の強化がスマートフォンからパソコン、クラウド、自動車、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)へとエンドマーケットの拡大を可能とし、現在のAI業界の中核企業としての礎になったのです。

こうやって振り返るとあっという間です。進化と増殖はチャレンジの連続で、進化の過程で多くの失敗もしてきましたが、それでも生き残り、株主価値を34兆円にまで増やしてきたのです。

  • ※1 2024年3月31日現在

  • ※2 ソフトバンクグループによるアーム株式1株当たりの取得価格1,700ペンスは、買収提案を発表した前営業日(2016年7月15日)の終値1,189ペンスの約43.0%や、2015年3月16日に記録した上場来高値(終値ベース)1,205ペンスの約41.1%などのプレミアムを反映しています。

図1:株主価値(NAV)

図1:(注)

  • 1. 各四半期末および2024年6月20日時点のNAVを示しています。NAVは、入手可能な情報に基づく当社の想定であり、情報の正確性および完全性について保証するものではなく、監査を受けた数値に基づくものではありません。NAVの推移は、将来の数値を保証するものではなく、また、ソフトバンクグループの普通株式を含むいかなる有価証券の価値や投資判断を示唆するものではありません。別段記載のない限り税金考慮前のデータに基づいて算出しています。

  • 2. 株価:2024年6月20日終値

  • 3. 各時点の保有株式価値の割合で按分しています。

  • * ヤフー(株)(現 LINEヤフー(株))は2019年6月にソフトバンクの子会社になりました。

図2:アーム投資の実績

図2:(注)

  • 1. 各取引日または評価日の為替レートで円換算しています。

  • 2. 株式価値はリターンから借入を除いた金額です。

  • 3. MOIC(Multiple of Invested Capital:投下資本倍率)は株式価値に係る投資およびリターンをもとに算出しています(税金考慮前)。

  • 4. Equity IRRは初回投資実施から2024年6月20日までの株式価値に係るIRRです(税金考慮前)。

  • 5. 投資額は付随費用を含みません。また、ソフトバンクグループとSVFの間で実施したグループ内取引の影響を含みません。

  • 6. リターン(24.6兆円)=アームIPOにおける株式売出しによる手取額(ソフトバンクグループで発生した関連費用を除きます。)+2024年6月20日時点のアーム株の保有株式価値(保有する株式数に同日終値を乗じて算出しています。)+アームからソフトバンクグループおよびSVF1が現物配当として受領したTreasure Data 株式およびAcetone Limited(Arm China株式の約48%を保有する中間持株会社)株式+2020年9月のNVIDIAへのアーム株の売却契約締結時に、NVIDIAから売却対価の一部として受領した返済義務のない前受金

  • 7. 借入:2016年9月に実行した、日本円による買収時の調達額

われわれの使命は人類の進化

進化と増殖の重要性は人類の発展にも当てはまりますが、とりわけ重要なのは進化です。2022年秋には「この程度で終わっていいのか」と自分の不甲斐なさに焦り、打ち震えていた私が今とても興奮しているのは、ついに当社の使命が見えたからにほかなりません。その使命とは「人類の進化」です。これ以上大きな旗印はありません。人類の叡智の1万倍賢いASI(Artificial Super Intelligence:人工超知能)を実現させることでその使命を果たすのです。これを決意したのは2023年6月11日です。それから1年間、脳をひたすら動かして毎日ASIを実現するためにどうしたらいいかを考え続けてきました。複雑な連立方程式に向き合うようなものです。

人類20万年の歴史を振り返ると、他の動物とは異なり人間だけが道具を次々と発明して進化を遂げてきました。人類の進化の担い手は人間だったのです。中でもレオナルド・ダ・ヴィンチやアインシュタインのような天才たちが刺激し合って、人類の進化を牽引してきました。現在、名だたるテクノロジー企業がこぞってAGI(Artificial General Intelligence:汎用人工知能)の開発に取り組んでいます。AGIは人間のような汎用的な知能を持つAIで、学習や問題解決を自律的に行う能力を持つとされています。10年も経たずに実現し、人間に代わって人類の加速度的な進化を牽引していくでしょう。それでも、AGIは天才たちと同等レベルに過ぎません。AGIが人間の範疇に留まるのであれば、人々の生き方、社会のルールや仕組みが劇的に変わることはないでしょう。

しかし、それがASIとなると話はまったく違います。ASIはAGI同士が刺激し合って、進化をどんどん加速させていった結果生まれるもので、まだ専門家の間でも意見の一致に至っていないものの、私は人類の叡智の1万倍賢いと考えています。今から10年ほど後にはASIが実現するでしょう。人類の叡智を圧倒的に上回るASIが実現することで、これまでのすべての常識が変わる転換点を迎えようとしているのです。これからの10年は人類の20万年の歴史において特に重要な期間になるでしょう。

アームがASIの基盤テクノロジーを提供

ASIはデジタルの世界に留まるものではありません。ASIにつながったスマートロボットが人間の代わりに製造、物流、建設、家事などの、ありとあらゆる物理的な作業をこなすようになります。ASIの到来を見据え、われわれもロボット開発企業に次々と投資を行っています。例えば、2024年には英国のWayveに投資を行いました。同社が開発する自動運転技術はロボット運転ともいえるもので、従来のようなハードウエアや高精細地図、手作業でプログラミングされるルールに依存しないデータ学習型運転の構築を目指しています。未知の状況や環境にも柔軟に対応できることから、さまざまな車種や初めての街に展開しやすいという特徴を有しています。

もちろんASIの基盤テクノロジーを提供するのはアームです。クラウド上の高性能サーバー側も、スマートフォンや自動車、ロボットなどのネットワーク周縁(エッジ)側もアームが進化を担っていきます。アームベースのチップ出荷数は増え続けており、これまでの累計出荷数は2,870億個※3に上ります。圧倒的な設計力を誇るアームだからこそ、高い演算処理能力と低電力消費を兼ね備えたプロセッサー・テクノロジーを生み出しました。この強みがクラウド側でもエッジ側でもASIの実現を牽引してくれると信じています。

過去にはアームをNVIDIAに売却するという決断を下したこともありました。結局は、規制上の課題からその後売却契約を解消しましたが、もし取引が成立していれば、われわれは先日時価総額世界一※4となったNVIDIAの大株主になっていたわけです。それでも、もし今、アームとNVIDIAのどちらか1社だけを買うチャンスが与えられたとしたら、1秒も迷わずアームを選びます。それぐらい、アームの将来を信じているのです。

  • ※3 2023年12月31日現在

  • ※4 2024年6月18日現在

パートナーとともに、チップ、データセンター、ロボットを推進

しかし、アームがいかに優れていても単独でASIを実現することはできません。この数年、生成AI向け半導体で急成長するNVIDIAに加えて、Amazon Web Services、アリババ、Microsoft、Googleといったハイパースケーラー(大規模なクラウド事業者)がアームテクノロジーをベースとした半導体を次々と開発しているように、ASI実現のためのAIチップの実現にもいろいろな企業と提携しながら取り組んでいきたいと考えています。ASI実現のためにはAIデータセンターやAIロボットも欠かせません。さらにAIの普及と進化を背景にデータセンターの消費電力も急増する見込みで、電力不足が最大のボトルネックになりえることから、発電量を増やすことも必要です。

いずれもグループの総力を挙げて推進していきますが、われわれだけではなく、志を共有するパートナーたちと技術面でも資金面でも協力しながらゴールに向かっていきたいと思います。平坦な道のりにはならないでしょうが、ダイナミックなアプローチを取っていきます。もちろん、リスク管理もしっかりしています。財務の安全性を示す指標であるLTV※5(Loan to Value:調整後純有利子負債÷保有株式価値)を金融市場の平時は25%未満で管理しています。

  • ※5 LTVの詳細は21ページをご覧ください。

本業は不変―情報革命で人々を幸せに

ASIが実現すれば、人々の生き方、社会のルールや仕組みが劇的に変わります。そう考えると、「仕事とは?」「人間とは?」「幸せとは?」と根源に関わるような疑問が沸々と湧いてきませんか。古代ギリシャの哲学者たちのように、われわれも「何のためにASIを生み出したいのか?」と問い質すべきなのです。

去年、父親をガンで亡くしました。悲嘆に暮れて毎日泣き続けました。母親は脳梗塞を患いました。もう誰もガンや脳梗塞で苦しまなくて済むようにしたいのです。人間の知能を置き換えるだけのAGIでは解決できませんが、人類の叡智の1万倍賢いASIならばあの悲しみを未然に防げたのではないかと思うのです。人間の運転手の代わりをただ務めるだけの自動運転では物足りません。ASIならば交通事故を1万分の1に減らすことも可能なはずです。ASIが実現すれば、大地震やパンデミックなど人類が20万年の歴史の中で苦しんできた絶望から救われるかもしれません。

「ソフトバンクグループは本業をコロコロ変える」とよく言われますが、本業を変えたことは一度もありません。創業来の経営理念である「情報革命で人々を幸せに」こそわれわれの本業であり、その実現のための手段を進化させてきたに過ぎません。テクノロジーの進化に伴って、手段は進化させていくべきなのです。新たな手段であるASIの実現を通じて、われわれの使命である人類の進化に貢献していきます。株主の皆様にもこの志を応援していただきたくお願い申し上げます。

2024年6月21日
ソフトバンクグループ株式会社
代表取締役 会長兼社長執行役員
孫 正義

  • 本ページにおける情報は2024年7月29日現在のものです。

  • 本ページにおける社名または略称はこちらよりご確認ください。

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