株主・投資家情報(IR)

社外取締役メッセージ—ソフトバンクグループレポート 2023

牽制機能を果たしつつ
孫さんの良さを生かす
さじ加減がガバナンスの肝

ソフトバンクグループ(株)
社外取締役 独立役員

飯島 彰己

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今は我慢のとき―中長期の視点でご覧いただきたい

孫さんが最重要指標と常日頃から強調しているNAVがこの2年で大幅に減少していることは、社外取締役としても重く受け止めています。「何をやっているんだ」という株主の皆様からのお叱りにも真摯に耳を傾けております。ただ、私も経営者として経験がありますが、事業をやっていると晴れの日ばかりではなく雨の日もあります。今は我慢のときで、この苦境を乗り越えれば、当社はまたさらに強くなると考えています。いずれ、もう一度大きく打って出る時期が来るはずです。それに備えて強固な財務基盤を作っていくことが必要ですが、2022年度に資産の資金化を進めるとともに投資を抑制してきましたので、その態勢はほぼ整っているといえるでしょう。

それも含めて、会社として間違った方向に進んでいるとは見ていません。例えばソフトバンク・ビジョン・ファンド一つ取っても、イーコマース、ロジスティクス、フィンテックなどのさまざまな分野にAIという一つの芯を持ちながら投資しています。今は、ウクライナ問題、米中摩擦の高まり、金融市場の混乱などいろいろな要因が複雑に絡み合って非常に難しい局面に置かれていますが、私は中長期の視点も持って業務に取り組んでいきたいと思っています。「ソフトバンク 新30年ビジョン」で掲げたように、300年成長し続ける企業を目指しているのですから、アップダウンを経ながら中長期的に右肩上がりになっていければいいと考えています。

孫さんの良さを生かすさじ加減が肝要

世間一般では、孫さんはいわゆるカリスマで、自分で決めたことを独断的にどんどん推し進めていくというイメージがあると思いますが、実際はそうではありません。取締役に就任した当初驚いたのですが、取締役会では社外、社内を問わず取締役が活発に意見しており、孫さんもそれをとてもよく聞いています。ある案件では「今回は取り下げます。議論を続けていきましょう」と、ほかの取締役の意見を素直に受け入れてくれたこともありました。そういう柔軟性をすごく感じますし、取締役会を非常に大事にされています。われわれが発言に苦慮するような際には各人にコメントを求めた上で、自由闊達な議論を行い、最後にどうするかを決めるという形を取っています。非常に民主的な運営です。

社外取締役の重要な役割の一つは、全体の戦略が正しい方向に進んでいるかをチェックすることです。ソフトバンクグループは孫さんが起業して、業態を変化させながら、右肩上がりの成長を遂げてきた会社です。ですから、孫さんのアイデア、行動力、先見性をどう生かしていくかが、会社の成長を考える上でとても重要です。行き過ぎは止めなければいけませんが、がちがちにルールで縛って「角を矯めて牛を殺す」ようなことがあってはなりません。この孫さんを中心とする執行側の良さを生かすことと、全体戦略を踏まえて経営をしっかりとモニタリングしていくことは、社外取締役としての重要な任務であり、この二つのさじ加減を取っていくことが肝要で、私はこの点を非常に重く受け止めています。孫さんは考えをまとめて、行動に移すのがものすごく早いので、そのスピード感や機動性を大事にしながら、時にはそれを後押しする、時には減速してもらうというように、取締役会として十分な意を払わなければいけないところだと感じています。

私は取締役会の諮問機関として2020年に設置された指名報酬委員会の委員長を務めています。孫さんのサクセッションプランについても、オーナーで創業者というポジションでもあるため通常の会社とは異なるものの、重要な課題だと認識しています。とはいえ、現時点では孫さん自身が年齢的に若く(2023年7月31日現在65歳)、まだまだやる気に満ちており、また特に今は非常に厳しい局面でもありますので、引き続きしっかりと経営の舵を取っていただきたいと考えています。

リスクマネジメントやガバナンスは進化

2023年6月の株主総会を経て、社外取締役として6年目を迎えました。就任当初と比べて、エンタープライズ・リスクマネジメント(ERM)にはかなりの進化が見られます。取締役会で年4回ほど報告が行われているほか、詳しく事前に説明してもらっており、枠組みはかなり出来上がっています。中身についても、リスクの洗い出しとその軽減策が整備されつつあると理解しています。

コーポレート・ガバナンスについても就任当初に比べてさらに強化されています。例えば多様性に関してはずいぶん向上してきました。2018年6月時点では12名の取締役のうち外国人が7名もいましたから人種や国籍の多様性はありましたが、社外取締役は私を含めて3名だけで、女性は一人もいませんでした。今は9名の取締役の中で、社外取締役が5名と過半数を占めており、十分ではないかもしれませんが女性も1名含まれています。また、全9名のうち外国人が2名含まれています。ジェンダーを含めた総合的な多様性は一段と増したといえるのではないでしょうか。

投融資案件やサステナビリティの議論を深めるべき

取締役会の運営では、さらに改善していく余地もあります。取締役会には一定金額以上の投融資案件が付議されますが、その基準以下の投融資案件については機動性を重視して投融資委員会で意思決定が行われています。ただ、取締役会の実効性を高めるという観点から、個々の投融資案件についてもう少し取締役会で議論したほうが良いと考えています。

サステナビリティに関する取り組みについても取締役会で報告されていますが、議論の時間は十分とはいえません。まずはERMと同じように事前に詳細な報告をいただければ、取締役会でもっと議論を深められると指摘しています。サステナビリティへの取り組みをさらに強化するためには、社外役員からの客観的な意見は有用だと思います。私は三井物産の顧問であると同時に、ソフトバンクグループを含めて3社の社外取締役を務めていますから、さまざまな業種にまたがった複数の会社の取り組みを学んでいます。そうして得られた知見をインプットすることで、今まで以上に貢献できるのではないかと考えています。

共同出資プログラムは新しいインセンティブの形になる可能性

ソフトバンク・ビジョン・ファンド2には共同出資プログラムが導入されており、孫さんが普通株の17%を保有しています。その導入に際しては、孫さんに退席してもらった上で、取締役会で議論しました。その後、孫さんに対して「孫さんはソフトバンクグループの株式の3割を保有しているのだから、投資の成果はその持分の価値上昇で受け取ったら良いのではないか」「利益相反が生じる恐れもあるし、ファンドマネジャーとしてのインセンティブを受け取ったほうがすっきりしていいのではないか」とお伝えしました。しかし、孫さんの考えは「ファンドマネジャーは成功報酬を受け取るが、失敗しても何も失わない。それは自分としては嫌だ。儲かったときも損したときも、応分にシェアする形のほうが真剣に投資に対して向き合える」というものでした。

そのような強い意志を踏まえ、リーガルオピニオンも取りながら議論を重ねた上で、現時点では異例な仕組みかもしれないけれども、孫さんが新たな道を切り開き、将来のインセンティブのスタンダードの一つになるかもしれないと、この仕組みを取締役会として受け入れたのです。現時点では、ソフトバンク・ビジョン・ファンド2のパフォーマンスが悪く、孫さんが大きな損失を負っている状態にあります。ただ、こういう状態がずっと続くとは思っていません。延長も含めると最大14年の長期ファンドですので、もう少し長い目で見ていただきたいと思っています。

  • 共同出資プログラムの詳細は90ページをご覧ください。

成長に向けた課題は3つ

今後の成長に向けた課題は大きく3つあると思います。第一に、アームの新規株式公開を成功させ、しっかりとした次の成長の柱の一つに作り上げることです。第二は、ソフトバンク・ビジョン・ファンドを再び活性化させることです。500社弱の投資先を一つひとつしっかり見ながら、もう一度価値を高め、エコシステムを再構築する必要があります。ソフトバンクは、成長戦略「Beyond Carrier」の下、自律的にPayPayやヤフー、LINEを含めて事業拡大を進めています。そこにアームとソフトバンク・ビジョン・ファンドが新たな成長の柱に加わってくれればと考えています。

そして、最後は人材育成です。企業の成否を分けるのは、やはり「人」ですからね。孫さんの後継者についても、指名報酬委員会の諮問を基に取締役会で選ばれた候補者を孫さんの下で育成してもらい、スムーズなトランジションができる形を作っていければと考えています。これらにしっかり取り組んでいくことで、再び成長軌道に戻っていくことができるだろうと思っています。

  • 本ページにおける情報は2023年7月27日現在のものです。

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