株主・投資家情報(IR)
社外取締役メッセージ—ソフトバンクグループレポート 2025
インテリジェンスがAI時代の競争力を左右
AIを取り巻く環境は、私が前回ソフトバンクグループのアニュアルレポートにメッセージを寄せた5年前から大きく変化しています。OpenAI による生成AI の飛躍的な進展を皮切りに、中国発のスタートアップを含むさまざまなタイプの生成AIモデルが登場し、革新のスピードが一層加速しています。
2025年5月には、AIを最も使いやすい国にするという日本政府の方針の下、初の包括的なAI法案※が成立しました。このAI 新法は、偽情報拡散といったAIによるリスクにしっかり対応することが、イノベーションの推進につながるという論理構成に基づいていて、これはかなり正しいと感じています。AIのイノベーションとリスク対応は、トレードオフの関係ではなく、個人情報保護、セキュリティー、透明性、説明責任といったルールが明確になることで、AIを安心して導入しやすくなり、社会全体への実装も進んでいくと思います。こうした時代において、長期的な視点で見ると、AI が生み出すインテリジェンス、すなわち高度な知的処理能力の確保と活用こそが、今後のグローバル競争における優位性を左右すると考えます。そのためには、電力や半導体といった基盤リソースをどれだけ多く集められるかが鍵となる、この方向性でグローバルプレイヤーは動いています。短期的には、かつてインターネット産業が経験したような調整局面が訪れる可能性も否定できませんが、長期的には、このインテリジェンスをいかに獲得し、活用していくかが、グローバルな競争の焦点になると考えています。
このような中、ソフトバンクグループは、ASIの実現に向けてAIインフラの整備やAI 投資を積極的に進めています。Stargate ProjectやOpenAIへの追加出資を決めるなど、「攻め」の投資を決定した背景には、電力や半導体を含む生成AI の周辺バリューチェーンを構築していくという大きな構想があります。孫社長は、私たち社外取締役にもこうした構想や戦略を折々で共有してくださり、素晴らしい取り組みだと感じています。
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人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律
なぜ今、OpenAIなのか
OpenAIへの出資に関しては、かつてアームの買収時にもあったように、「高いのではないか」「本当にこのまま突き進んで大丈夫なのか」といった心配の声が一部の株主・投資家から寄せられています。このような評価を覆すには、生成AIの領域でOpenAIがどこまで「ウィナー・テイクス・オール」の構造を築けるのか、また、先行者としてどれほどの優位性を維持できるのかという点が重要になってくると思います。
孫社長は、インターネット産業や情報産業の性質をよく理解していて、人々が思う以上に、「ウィナー・テイクス・オール」の傾向や、先行企業が築いた優位性を後発が覆す難しさを、肌感覚で分かっているように感じます。実際これまでの勝ちパターンを振り返っても、米国Yahoo!やアリババへの出資は、当時これらの企業がまだ十分な業績を上げていない段階で、将来的に勝者になる可能性をいち早く見抜いた例だといえます。今回のOpenAIに関しても、同社が持つ本来のバリューがしっかり見えた上で、投資判断をしたと考えています。
OpenAI の競争優位性の一つは、スタートアップならではの圧倒的なスピード感にあります。Googleをはじめとするビッグテックが技術力を有しながらも大企業的な慎重なアプローチをとる一方で、どんどんモデルを世に出して、市場の反応を見ながら次に出すものを決めていくOpenAI のスピード感にはアドバンテージがあります。巨額な資金調達を成功させ、優秀な人材を確保し、前に進めていける強さは、ビッグテックとしても、容易に捉えられそうでいて実際には難しい。そして、このように走り続けるスタートアップを多方面でサポートできるのは、ソフトバンクグループの強みであり得意とするところでもあります。特に、孫社長が迅速に意思決定し、執行部隊が素早く動けるというスピード感、そしてアームを中心とした産業的な広がりを有している点は、OpenAIにとっても大きな魅力であり、ソフトバンクグループとwin-winの関係性にあると思います。
生成AI の競争力はさまざまな指標で測ることができますが、最終的にはブランドの勝負になると考えます。スマートフォンや自動車と同じように、ある程度普及したモノに対する人の認知は、細かな性能差よりも、そのブランドに対する信頼性で判断する傾向があります。現在、「生成AIといえばChatGPT」という第一想起を確立しているOpenAIは、すでに強力なブランドポジションを築いており、参入障壁を高めています。こうした認知優位性も、同社の持つ大きな競争力の一部だと考えます。
攻めと守りの経営を支えるリーダーシップとガバナンス
私は2019年6月からソフトバンクグループの社外取締役を務めていますが、攻めと守りのメリハリの利いた当社の経営力を高く評価しています。例えばコロナ禍で先行きが不透明だった2020年初頭、日本で緊急事態宣言が発令される前のタイミングにおいて、今振り返ると孫社長は非常に正確に先行きを予測していたことが印象に残っています。感染拡大の波がやってくること、ワクチンは同年秋には開発されるが、製造リードタイムによりワクチン接種が開始するまでにはそこからさらに約1年かかること、よってコロナ禍収束までには約2年かかること。こうした予測を立てた上で、キャッシュを増やして守りを固めるとの方針を打ち出しました。そしてコロナ禍収束後は、アームの上場、そして直近のOpenAIとの連携といった大きな決断を迅速に下し、一気に攻めに転じています。孫社長はよく経営を戦に例えますが、まさに戦国武将が軍隊を指揮しているかのように、攻めと守りのタイミングを見極めて的確に切り替える、その経営力には感心させられます。
「攻め」に関しては、孫社長には大きな構想があり、今後のAIの可能性の広がりにも疑いはありません。一方で、社外取締役としては、株主視点に立ってしっかりとリスクサイドを意識し、懸念点や心配な事項の確認を怠らないようにしなければなりません。ほかの社外取締役の方々ともこの点の認識を共有しており、議論の中で生じた疑問や必要な情報については、執行側と適宜コミュニケーションをとりながら確認しています。
こうした社外取締役からの要望にも、会社側には非常に誠実に対応いただいています。またそもそも、隠蔽しようとか、だまそうといったところが全くないまっとうな企業カルチャーですので、その意味でも信頼でき、やりやすさを感じています。
挑戦する日本企業として―ソフトバンクグループが開くAIの未来
ソフトバンクグループは、アームやOpenAIを中核に据えた世界的なAI 大戦略を描くと同時に、国内ではソフトバンクをはじめとするグループ各社で、何万人もの社員が生成AIの活用アイデアを競うなど、AIの徹底的な活用を進めています。日本国内にはAI の導入が進んでいない企業もまだ数多く存在しており、適応に対する潜在的なニーズが大きい中、ソフトバンクグループの取り組みは重要かつ先進的だと感じています。また、OpenAIの生成AIが今後発展していくと、これまでAI 革命を念頭に投資を進めてきたソフトバンク・ビジョン・ファンドの投資先との新たなシナジーが生まれてくるポテンシャルも大きいのではないかと期待しています。
ソフトバンクグループは、AIの領域においてビッグテックと渡り合って世界レベルの戦いに挑んでいる数少ない日本企業です。AI 競争の戦に勝つか負けるかはまだ分かりませんが、日本企業としてこの戦いを仕掛けに行っていること自体、もっと日本全体で応援しなければいけないと感じています。ステークホルダーの皆様には、ソフトバンクグループの果敢なチャレンジを引き続き応援していただきたいと思いますし、このチャレンジが日本のほかの企業にも伝播し、日本全体がもっと世界に挑戦していくムードを創れると良いと思います。孫社長の構想の実現は、執行部メンバーの実行力にかかっています。これからの大きな旅の道のりも、決して平坦ではないでしょう。それでも、力強いリーダーシップの下、攻めと守りを巧みに使い分ける当社の経営力が、さらなる成功をもたらすことを期待しています。
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本ページにおける情報は2025年7月28日現在のものです。
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