株主・投資家情報(IR)
監査役メッセージ—ソフトバンクグループレポート 2025
当社との接点
前職の野村證券時代、リスク管理を統括する立場で、当社の事業内容や財務状況を継続的に見てきました。当時の当社は、日本で2番目に借金の多い事業会社であり、その印象が強く残っています。野村證券は、ソフトバンクグループによる個人向け社債の引き受けや2018年のソフトバンク上場などにおいて幅広い投資家層の開拓を中心的に支援してきました。野村證券にとって最も重要な取引先の一つと位置付けていたのです。リスク管理を担当していた私の視点からは、野村證券のお客様が相当なソフトバンクグループの株式や社債を保有されていましたし、野村證券としても社債の引き受けなどをしていたため、取引先に対する信用リスク管理という視点で、ソフトバンクグループおよびその関連企業を含めた野村證券のエクスポージャーをすべて把握し、野村證券のさまざまな意思決定・判断をしてきたという経緯があります。
監査役就任後の印象の変化
野村證券時代の私は、当社の事業内容や財務内容について、基本的には公表されている情報を基に数値を集め、分析し、リスク管理統括という立場から保守的に見てきました。特に有利子負債が大きい点は、信用力という観点でどう見るかが重要でしたし、そもそも事業内容についてもさまざまな投資をしていて分かりにくい上に、投資先に依存する部分も大きいという点では不確実性が高いように見えていました。
それが、ひとたび経営の中に入ったことで、どのように経営管理をしているのかという実態が見えてきました。経営陣による経営管理のやり方や、管理体制の強さといった点は、外部からは見えにくく、その実態を肌で実感できたことは、当社の理解を深める上で大きな意味がありました。
長年リスク管理に携わってきた身として、これまでの世の中のリスク管理の潮流を振り返ると、従来の「ロバストネス※1」から、特にコロナ禍を境に、「レジリエンス※2」へと方向転換してきたように感じます。コロナ禍のような、予想外の事象が起きると、そうしたことが今後も必ず起きうるし、そのときにどう復元していくかというレジリエンスが求められる方向へと流れが変わってきました。
私がこれまでの4年間で良く理解できたことは、当社は、潜在的に強い復元力を持った、レジリエンスに長けている企業だということです。特に当社は、今「攻め」に転じており、そうした状況下では、レジリエンスの強みが、より良く発揮されうると思います。
前職での経営との違い
規制業種である金融機関では、規制対応のために相当のリソースを割く必要がありました。リスク管理統括としての日常業務の半分近くは、規制当局向けの報告書の作成など、当局とのコミュニケーションに関連したものでした。当社はそうした金融機関とは全く成り立ちが異なり、金融機関に求められるほどの規制対応の負荷がありません。その分、効率的な経営管理体制が敷かれていると感じます。
また、ガバナンスの在り方に関しても、ソフトバンクグループは、孫さんが株式を約30%保有して会長・社長を務めている企業です。多くの非オーナー企業では、社長は社内から抜擢されたサラリーマンであることが一般的です。そうした成り立ちの違いは、ガバナンスの在り方にも影響しています。
コーポレート・ガバナンスの制度設計上も、当社は監査役会設置会社で、取締役会が基本的な意思決定機関となります。前職では指名委員会等設置会社の下で、執行と監督の分離を図ってきましたので、そうした機関設計の違いによる立ち位置の違いも大きいと感じます。
当社のスピード経営
私は2021年6月に当社に参画し、すぐにその経営のスピード感を目の当たりにしました。それは良い意味で、大きな驚きでした。2021年当時の市場環境は、まさに潮目が変わるタイミングでした。コロナ禍後、リモート勤務が日常化する中で、大きく上昇したIT 企業の株価が元に戻っていく、つまり、買われ過ぎた企業の株価が下がる局面にありました。その中で、当社の意思決定のスピード感には驚きを禁じ得ず、まさにオーナー企業ならではの強みだと実感しました。巨大な金融機関の組織では、なかなかすぐに方向転換をしたり、やめたりといった大胆な動きはとれず、ある程度、惰性で続いてしまうことが普通でしたので、とても印象的でした。
取締役会での議論
2024年度を振り返ると、米国大統領選挙でトランプ大統領の勝利が決まった11月の後半ぐらいから、世の中はガラッと変わってきています。当社においても昨年12月以降には複数回、通常の取締役会とは別に臨時取締役会も開催してきました。
当社は企業文化として、おかしいところをおかしいと言える風通しの良さがあります。その上で、取締役会で大型の投資案件を決めていく過程では、孫さんが強いリーダーシップを発揮しています。当社のスピード経営の根幹には、取締役会に参加している各メンバーが、孫さんの描くビジョンに強く賛同していることがあります。特に、AIを中心としながらもデータセンターやエネルギー、さらにはチップも含めた大きな戦略を打ち立てていますが、その孫さんの発想やインスピレーション、アイデアを、取締役会として理解した上で、スピードが求められる経営判断についても孫さんが目指す方向についていく姿勢があります。
もちろん、具体的に、どういう順番で投資をしていくのか、その裏付けとなる資金の調達はどうするのかなど、いろいろ付随して取締役会で議論すべきことは多岐にわたります。これは2024年度に限らず、今後も、さまざまな話が出てくる部分です。私は、ソフトバンクグループの取締役会での決議のプロセスが適切であると判断していますし、2024年度に決定した数々の大型投資案件についても、向かうべき方向性について皆が理解していたことにより、侃侃諤諤とした議論で意思決定が遅れることもありませんでした。結果として、私自身が指摘したこともほとんどありませんでした。
監査役会および常勤監査役としての役割
ソフトバンクグループは、私と遠山篤監査役の2名の独立役員が常勤監査役として、監査役監査を行う体制となっています。公認会計士としての専門領域があり海外事業に精通されていらっしゃる遠山監査役は主として海外案件を中心に、私は、ソフトバンクホークスをはじめとした国内の案件や、投資関連の案件を中心に監査を行うといった、大まかな役割分担をしながら進めています。また月1回開催される監査役会において、いろいろな部門からヒアリングや報告を受ける中で、非常勤監査役の方々と議論をする以外に、監査役同士で意見交換も行っています。
監査役会で具体的に検討する内容としては、重要な決定に対する体制、取締役会で実効性のある議論を促進するプロセスおよび体制、子会社・投資先の管理・監督体制、内部統制システムの整備・運用状況、リスク管理体制の運営状況、インサイダー情報・投資コンフリクト管理体制の運営状況などがあります。
これらはもちろん重要ですが、金融機関で長年リスク管理を担当してきた私の視点では、もっと議論すべきことがあると考えています。具体的には、過去の投資の失敗から得られた教訓を、どのように今後の投資判断やポートフォリオ管理に生かしていくか、ということです。当社は、アリババやアームなど、大きな成功を収めていますが、当然ながらすべての投資が成功しているわけではありません。大きな成功の陰で、過去の失敗から十分な学びを得られているかが見えにくくなっている点が気がかりです。失敗を減らすことも、当社が追求するNAVの極大化に貢献しますし、組織として失敗から得られた知見を引き出し、蓄積していかなければ、孫さん個人の力量に依存する企業になりかねないと懸念しています。
新たな監査役会の体制
2025年度には、監査役が2名交代し、新たに西橋久仁子監査役と金丸祐子監査役が加わりました。女性の監査役が2名入ってこられたことは、ダイバーシティの観点から意義があり、議論にも新たな視点が加わることを期待しています。同時に、当社は本格的に「攻め」のフェーズに突入しています。監査役会としては、「攻め」が実現できるのかどうかという意味で、逆に「守り」がどうなっているのかという点に注視していきたいと思います。
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※1 ロバストネス(Robustness):想定外の変化やトラブルが起きても、仕組みや活動を大きく変えることなく安定的に維持できる強さや安定性のこと
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※2 レジリエンス(Resilience):自然災害や社会の急変などの想定外の出来事に直面した際に、柔軟に適応し、速やかに回復・再構築できる力のこと。単に「壊れない」ではなく、「壊れても立て直せる力」に重点がある
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本ページにおける情報は2025年7月28日現在のものです。
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