OpenAIとは、さまざまなプロジェクトを進めています。一つは「Stargate Project」※4、もう一つが「Cristal intelligence(クリスタル・インテリジェンス)」※5です。「Stargate Project」は新たなAIインフラストラクチャを米国内で構築するという構想で、OpenAIのAIモデルの進化を支えるためのコンピュートを提供することが期待されています。「Cristal intelligence」は個々の企業向けにカスタマイズされた最先端AIで、まずはグループ内にある給与計算、営業、在庫管理、技術など2,500に及ぶ業務システムを統合していきます。年内には当社全体で世界最大規模のAIエージェントの運用を開始し、徹底的に使いこなした後、他の日本企業にも展開していく計画です。
株主・投資家情報(IR)
トップメッセージ—ソフトバンクグループレポート 2025
出発は一枚の写真
1975年1月、17歳の私はサンフランシスコで1冊の雑誌を手に取り、人生を変える一枚の写真に出会いました。それは、まるで未来都市の設計図や幾何学模様のような摩訶不思議な写真で、指先にちょんと載るほど小さなマイクロコンピューターのチップでした。当時、IBMのコンピューターを使ってプログラミングを学び始めていた私は、コンピューターは巨大で高価なものであり、一般人には縁遠い存在だと思っていました。しかしその小さなチップには、シリコンウエハー上に無数のトランジスタが印刷され、コンピューターの機能が詰まっていたのです。その瞬間、指先が震え、涙が止まらなくなるほどの感動に襲われました。まるで人類が自らの手で、自らの知能を超える存在を作り出そうとしている瞬間を見たような衝撃でした。その感動は脳に深く刻み込まれました。その写真を切り取り、下敷きに挟んで毎日持ち歩き、枕の下に敷いて寝ていました。まるで憧れのスターと出会ったかのような思いで、そのチップに惹かれ、夢中でコンピューターを学び、展示会にも通い、プログラミングにも没頭しました。
それから50年が経ちました。67歳になり、あの一枚の写真に出会った瞬間から始まった旅路の延長線上にいます。当時は夢物語と思われていた「人間の知能を超えるもの」が現実となろうとしている今、当時の「いつかこの分野で重要な役割を果たしてみせる」という決意がいよいよ形になり始めています。
創業の原点と進化
ASI(Artificial Super Intelligence:人工超知能)とは何か、ご存じない方もいらっしゃるかもしれません。AI(Artificial Intelligence:人工知能)という言葉はすでに広く知られていますが、その“スーパー”、つまり人間の知能を超えた超知能がASIです。業界の人々は今この言葉を当たり前のように使っていますが、実は私は50年前からこのコンセプトを信じ続けてきました。人間の脳を超える超知能がいつか誕生する。それは私が最初にマイクロコンピューターのチップの写真を目にしたときから一貫した想いであり、一度も揺らいだことはありません。この想いが当社の原点です。そして情報革命を推進し、人々を幸せにすること。その中でも最も未来を照らす目標が、まさにASIの実現だったのです。だからこそ、今、改めてその想いを皆様にお伝えしたいのです。そして、真剣にその未来を語る時が、ついにやってきたと強く感じています。
これまで当社は、何度も業態を変えてきました。そのたびに「何屋なのか分からない」「もうすぐ潰れるのではないか」と批判されてきました。ですが、当社の歴史を振り返れば、私たちが保有する株式価値から純有利子負債を差し引いたNAV(Net Asset Value)(図1参照)が上下しつつも着実に伸びてきたことは明らかです。最初はパソコンのソフトウエア流通から始まりました。次にインターネット時代の黎明期には米Yahoo! Inc.に投資し、「Yahoo! JAPAN」を共に立ち上げ、「Yahoo! BB」でブロードバンドを日本中に普及させました。次にモバイルブロードバンドの時代の到来に先駆けて、ボーダフォン日本法人を買収し、AppleのiPhoneを日本に広めました。さらに米スプリントを買収、後にTモバイルと統合して通信会社として世界最大の時価総額を実現しました。投資活動としては、アリババの筆頭株主となったほか、ソフトバンク・ビジョン・ファンドを通して世界のAI関連企業に出資しました。さらに、半導体IP(Intellectual Property:回路設計データ)企業アームを買収し、大きく成長させています。
現在のNAVは約31兆円(2025年6月26日現在(図1参照))です。同日の当社の時価総額は約14兆円ですから、保有する資産の価値の半分で評価されているということになります。株価や時価総額はもちろん大事ですが、私にとってはそれがゴールなわけではありません。高い志、大きな目標を持ち、そこに向かって突き進んでいけば、それらの数字は後からついてくると信じています。
図1:株主価値(NAV)


図1:(注)
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1. 各四半期末および2025年6月26日時点のNAVを示しています。NAVは、入手可能な情報に基づく当社の想定であり、情報の正確性および完全性について保証するものではなく、監査を受けた数値に基づくものではありません。NAVの推移は、将来の数値を保証するものではなく、また、ソフトバンクグループの普通株式を含むいかなる有価証券の価値や投資判断を示唆するものではありません。別段記載のない限り税金考慮前のデータに基づいて算出しています。
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2. 各時点の保有株式価値の割合で按分しています。
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※ ヤフー(株)(現 LINEヤフー(株))は2019年6月にソフトバンクの子会社になりました。
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(2025年6月26日時点のプロフォーマ)
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1. 株価:アーム、ソフトバンク、Tモバイル、ドイツテレコム及びアリババについては2025年6月26日終値、その他の上場株式については2025年3月31日終値
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2. 為替:1ドル=144.80円
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3. 株式数:2025年3月31日時点
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4. 2025年4月以降に実行した75億米ドルのOpenAI投資をSVF2の保有株式に、同額借入を純負債に加算して算出
ASIの中核へ
これまでは過去の話をしてきましたが、一番大事なのはこれから先の未来です。今から10年後に「当社が何をした会社なのか、どのように人々に貢献した会社なのか」と問われたとき、「ASIの世界No.1プラットフォーマー」と答えたい。この一点です。プラットフォーマーとは、産業の中核を担う存在のこと。Google、Apple、Microsoft、Amazon、Metaといった米国の巨大IT企業がそうであるように、私たちは次の時代、ASIという全く新しい産業において、その基盤となる企業になりたい。企業には、時間の経過とともに利益率が減少する収穫逓減型と、時を追うごとに影響力と利益が拡大していく収穫逓増型があります。日本の産業がこの30年元気がないのは、逓減型にとどまっていたからです。私たちはGAFAM※1のように収穫逓増型のプラットフォーマーとなると決意しています。
私たちはその中核となるものをいくつか持っています。一つはアームです。買収した2016年当時は携帯電話向けチップが中心でしたが、今やPC、自動車、IoT、そしてクラウドにまで展開し、2025年6月末までに世界で累計3,250億個以上のアームベースチップが出荷されています。その中でも、クラウド向けチップの伸びは著しく、今年、主要なハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)によって新たに導入されるサーバー向けチップの最大50%がアームベースになる見込みです。加えて、アームが圧倒的な強みを持つIPの次の工程であるチップ設計の知見・経験を持つGraphcoreを2024年7月に買収しました。さらに別のチップ設計会社であるAmpereも2025年度後半に買収完了予定です。AI半導体領域を強化するためにチップの設計完了に至るまでの要素技術をグループ内に取り込み始めました。
もう一つはOpenAIです。同社のChatGPTは2022年11月の公開から約2年半で、週5億人が利用し、そのAIモデルは博士号試験にも合格できる水準に達しています。さらにモノを知るだけでなく、リーズニング(論理的思考や推論)を行い、行動までする̶すなわちAIエージェントの時代がついに始まっています。私たちはこのOpenAIに最大4.8兆円※2出資することを決定しました。大変大きな額ではありますが、同社は、今後、地球上で最も価値のある会社になると確信しています。
私は、オールイン ― すべてを賭けるつもりで、このASIの世界に挑んでいます。当社は「群戦略」の下、多種多様な企業で構成されていますが、その中でアームとOpenAIの2社こそがASI時代のNo.1プラットフォーマーを目指す上で欠かすことのできない両輪になると考えています。
私は、10年後には世界のGDPの少なくとも5%に当たる1,300兆円※3が、ASIの中核を担う数社によって生み出されると予想しています。しかも収穫逓増型ですから、利益率は50%近くに達するでしょう。ASIのプラットフォーマーとして、その中の1社になりたいと考えています。これは約束ではありません。でも、そうした強い想いを持っています。
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※1 Google、Apple、Facebook(現Meta)、Amazon、Microsoftの米国大手IT企業5社の頭文字を取った略称です。
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※2 2024年度のSVF2からOpenAIへの投資額(22億米ドル)に、2025年4月1日付で公表したOpenAIへの追加出資における当社の実質的な出資予定額(最大300億米ドル)を加えた322億米ドルを1米ドル=149.52円で換算した金額です。OpenAI, Inc.の営利子会社であるOpenAI Global, LLCにおいて、同社の経済的分配構造の廃止および新会社の優先株式の発行等が完了した時期に応じて、2025年12月予定されているセカンドクロージングの出資額は次の金額となります。
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1. 2025年末または特定の状況下では2026年の早い時期までに完了した場合、最大300億米ドル
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2. 2025年末または特定の状況下では2026年の早い時期までに完了しない場合、100億米ドル
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詳細は、2025年4月1日付適時開示資料「OpenAIへの追加出資に関するお知らせ」をご覧ください。
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※3 世界銀行がまとめた世界のGDPの実績値をもとに当社が予測した金額です。
AIとの関係性が再定義される歴史的転換点

ASIの時代には、能動的に動くAIエージェントや物理的に動作するロボットが、あらゆる職業領域にわたって社会を根本から変革していくでしょう。今、私たちは人間の仕事や幸福、AIとの関係性そのものを再定義する歴史的転換点に立っています。
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※4 Stargate Projectの詳細は2025年1月22日付プレスリリース「Stargate Projectについて」および本レポート16ページをご参照ください。
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※5 Cristal intelligenceの詳細は2025年2月3日付プレスリリース「OpenAIおよびソフトバンクグループが提携し、企業用最先端AIを開発・販売することに合意」および本レポート16ページをご参照ください。なお、「Cristal intelligence」は仮称です。
「超知能」から「超知性」へ
50年前にマイクロコンピューターのチップの写真に出会ってから始まった旅が、今新たな節目を迎えています。これまでも「ASIの時代がくる」と繰り返し言ってきましたが、その分野で「世界No.1のプラットフォーマーになる」と明言するのは初めてです。できるかどうかは別としても、絶対に1番を目指す。そう思ってこれまで生きてきました。そして今、ようやく本当にやりたかったこと、つまりASIの時代におけるプラットフォーマーとしての戦略を本気で遂行できるステージに到達しました。
ただ、「超知能」だけでは十分ではありません。本当に目指すべきは「超知性」です。知能とは、あくまで情報処理能力や計算能力ですが、知性はそこに「慈愛」「優しさ」「人間性」が加わるものです。能力があるだけでは尊敬に値しません。そこに思いやりや愛情がなければ、真に信頼される存在にはなれません。
AIが人間を遥かに超える力を持つとしても、もし優しさや愛情がなければ、人間にとって危険な存在になりかねません。しかし、私はAIがそんなに愚かだとは思いません。AIは私たち人類によって生まれ、育てられ、共にこの地球で生きるパートナーになるべき存在です。
これからの50年は、仕事の在り方、幸せの概念、そして人間とAIとの関係まで、すべてを再定義するような時代になるでしょう。情報革命は、そのための手段です。そして、その目的はただ一つ̶人々を幸せにすることです。この変わらぬ理念を、皆様に改めて約束します。そして、当社をASI時代の中心的存在である世界一のプラットフォーマーにしてみせます。それが、私の決意です。株主の皆様には引き続き応援いただきたくお願い申し上げます。
2025年6月27日
ソフトバンクグループ株式会社
代表取締役 会長兼社長執行役員
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本ページにおける情報は2025年7月28日現在のものです。
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