孫 正義 グループ代表挨拶

ブロードバンド推進協議会(BBA)シンポジウム
「国民の、ITによる、日本復活」

2010年4月23日、「三木谷 浩史・孫 正義が語る『国民の、ITによる、日本復活』 ~ブロードバンドアクセス100%がもたらす国民生活の変貌とポテンシャル~」と題したシンポジウムが、一般社団法人ブロードバンド推進協議会(BBA)の主催で行われました。この中で、ソフトバンクグループ代表で、BBAの代表理事でもある孫 正義が、日本の光回線の今後、「光の道」について講演しました。ここではそのダイジェストをお届けします。

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三木谷 浩史・孫 正義が語る 「国民の、ITによる、日本復活」(2010年4月23日)


ITジャーナリスト 佐々木 俊尚氏と孫 正義対談 「光の道」全ての国民に光を(2010年5月13日)

21世紀は「光の道」



2010年1月に、鳩山 由紀夫首相が「コンクリートから人へ」ということで、日本のブロードバンドインフラを「光の道」、つまり光ファイバーによる回線(以下「光」)に置き換えましょうということを提案されました。また原口 一博総務大臣も、「光の道」のビジョンを掲げられ、私もまったく同感です。現在の日本のブロードバンドは、「光」とメタル回線がミックスされており、このメタル回線を引き剥がして、100%「光」に置き換えることをしていかなければなりません。
ではなぜ100%「光」にしなければならないのでしょうか?

私は21世紀の人権として、「情報アクセス権」が新たに加えられるべきと考えます。こうしたとき、100%「光」の回線による「光の道」が鍵になるのです。
このことはすでに、シンガポールや韓国では1~2年で達成する方針が示され、オーストラリア、スウェーデン、アメリカでも、一気に国中に張り巡らせることになっています。日本の「光」は現在、カバー率では約90%ありますが、実際の使用率となると約30%しかありません。この30%を100%にしようというのが、私の考えなのです。

かつて、後藤 新平という人がいました。彼は、現在の総務大臣に相当する役を務めていらっしゃいましたが、環状線や靖国通りなど、東京の大きな道路を一気に造った人物です。まだ車もまばらな時代に大きな道路を造ることは、とんでもない大風呂敷。新聞にもひどい書かれ方をし、人々から大きな非難を浴びました。しかし彼が大風呂敷を広げ、道路を作り直すことを提唱していなかったとしたら、東京はもっと混雑していたはずです。つまりインフラとは、現在、あるいは2~3年後という短いスパンではなく、10年、30年、50年先を見越して、大きく高い志を持って考えなければならないことが分かります。

20世紀のインフラを思い起こしてみてください。「車の道」「水の道」「電気の道」「電話の道」などが、何十兆円という国家予算を使い、ほぼすべての世帯に張り巡らされました。現在は離島や過疎地にあっても、電気もガスも水道もある社会生活を送ることができます。20世紀はこれらのインフラをいち早く整備した国が、他の国との競争力を持つことができたのです。では21世紀の人々のために、我々は何をすべきか?

それが「光の道」です。

「光」のある生活

20世紀のはじめ、家庭に電気が通る前は、ロウソクで生活していました。電気が生まれ家庭に供給されるようになると、人々の生活は大きく変わりました。照明は家庭の中にだんらん を提供しました。夜は母が子に、本を読んで聞かせることもできるようになりました。冷蔵庫、テレビ、洗濯機などの“三種の神器”の登場で未来生活の仲間入りし、日本には高度成長期がやってきたのです。



では「光」は何をもたらすのでしょうか。20世紀の日本は、核家族化が進みました。若者は大都市にやってきて、お父さん、お母さん、若者たちの子たちから見るとおじいちゃん、おばあちゃんは、地元の田舎に離れ離れで住んでいます。しかし光ファイバーでつながれば、離れ離れになっている家族が、まるですぐ側にいるかのようにだんらんをともにすることができ、心を触れ合わすことができるようになります。

電気が生活を変えた例として、洗濯機があります。洗濯機の登場以前、井戸から重い水を汲み、どんなに寒い日でも素手で洗う洗濯は、女性にとって大変な重労働でした。水道と電気がつながった洗濯機によって、女性はこの過酷な労働から解放されました。
21世紀になると、今日ではインターネットはつながっていますので、子育てをしながら仕事をしたい場合でも、ある程度のことはできます。しかし仕事を本格的にしようとすると、やはり道具のそろっているオフィスと比べ、自宅では生産性が低いということになってしまいます。ですが「光」を使いクラウドコンピューティングで自宅とオフィスをつなげると、高精細な動画でも一瞬で動き、世界中の情報が簡単に取得できるようになります。そうなれば、自宅にいながらでもさまざまな仕事ができるようになり、子育てとの両立もいっそう容易となります。これは女性に限った話ではなく、男性でも同じです。満員電車に乗り3時間という貴重な時間を、会社との往復に使っている方もいますが、これももっと効率的になると思います。日本で、家庭で仕事をしている人は3~4%と言われていますが、アメリカでは25%ほどもいるそうです。全員家で仕事をしようということではありませんが、せめて現在のアメリカ並みになれば、もう少し効率的になるのではないでしょうか。アーティスト、デザイナー、設計者など、在宅でできる仕事はたくさんあるはずなのです。

またアメリカには定年がありません。なぜかというと、アメリカでは定年は年齢差別に当たり、憲法違反になるからです。日本は人口が減っており、今後労働人口は、中国やインドにかなうはずがありません。このような状況の中で、アメリカでは禁止されているような定年という制度を、なぜ残しておくのでしょうか。「光」によって在宅でも仕事ができるようになれば、働きたい人は、働ける限り働けるようになります。

テクノロジーの改革・革命は、単にお金を稼ぐだけの道具ではありません。人々の幸福、健康、社会への貢献、教育、家族や友人との絆、仕事ができる喜び。そういったもののためにある道具です。その道具を良くしていくことで、社会が変わるということなのです。

日本の国際競争力

かつて日本のインターネットは、世界一高く、世界一遅いと言われていましたが、我々のチャレンジなどによって、世界一安く、世界一速いものとなりました。一時は世界一となりましたが、実はその後、あっという間に抜かれてしまい、今では16位まで転落しています。ITの世界はほんの一瞬気を抜いただけで、すぐに抜かれてしまうのです。これをもう一回抜き返したい。そのためには、教育を根底から見直す必要があると考えます。大学のIT系学部の卒業生の数は、年間でインドが68万人、中国が34万人と言われているのに対し、日本はたったの6万人。人口が足りない上に、ITを学ぶ学生が圧倒的に少ないのです。ITの分野では、アメリカがサービスでもコンテンツでも先進国ですが、アメリカは、主要な大学ではインターネットを使って講義を提供し、単位も取得できます。日本は少ない人間に、せめて優秀な頭脳を提供する必要があるのですから、アメリカのようにもっと積極的にITを活用すべきなのです。

情報立国による新たな成長











今メタル回線(電話回線)が、日本中の各家庭や会社につながっており、これが1回線あたり月々1,400円で提供されています。この1,400円という同じ価格で「光」回線に置き換わるということでしたらどうでしょう。同じ価格で圧倒的に機能が増える、一方でこれまで通り電話だけでいいという人はそのまま使えるということであれば、そしてメタルを「光」に置き換えるのに、1円の税金も使わないということでしたら、反対する消費者は少ないのではないかと思います。ではなぜ、そんなことが可能になるのでしょうか。

空を見上げれば、街にはたくさんの電信柱が立っていて、そこには重たいメタル回線がいっぱいぶら下がっています。風が吹けば電柱は傷みます。その上メタル線は銅を材料としているため腐食してしまうので、大変なメンテナンスのコストがかかっているのです。これに対しガラスでできている光ファイバーは、軽くて長持ち、その上価格も安く作れます。そのためメンテナンスにかかる費用も、安く抑えることができるのです。

メタル回線のメンテナンスには年間で3,900億円かかっています。10年で3.9兆円かかり、20年では約8兆円かかる計算です。今はメタル回線と光回線が二重構造になっていますが、「メタル(電話)のままでいい」という人がいるので、メタルを引き剥がせない状況です。これでは20年たっても、メタルはなくなりません。でも「光」はすでにだいぶ引いてありますので、あと2.5兆円あれば引くことができるのです。メンテナンスを続ける代わりにメタル回線を引き剥がして、残りの「光」を引いても、まだお釣りがきます。

インフラというものは誰かが腹をくくれば変わるのです。そして、「光に変えよう」と腹をくくるのは、私たち国民なのです。今、「光」が高いのは、注文があるたびに、一つひとつ個別に引いているからです。たとえばあるお宅が「うちに引いてほしい」と言えばそこに引き、数ヵ月後に3件隣の家が「うちも」と言えば、改めてそこに行って工事をする。しかし「私の家の前だけ10メートル舗装して」「私の家だけ水道を通して」と、インフラを作るのに、こんなやり方をするはずはありません。道路でも水道でも電線でも、インフラを引くときは一気呵成に引くわけです。道路のようなインフラであれば一気に造って、その道路の上で車会社が競争をするわけです。現在のメタルと「光」のように、二重三重にインフラを引き、需要に応じてつなげていくというやり方は、非常に非効率です。

現状、「光」は個別に引いているので、1回線あたり12万円かかります。これを計画的に一気に引くと、3万円でできます。「技術的に無理」と反論する人もいますが、私たちは命がけでブロードバンドを引いてきましたので、根性が違います。もし価格が高くなってしまったら、その高くなってしまった分は、すべて国民に跳ね返ります。ですから「国民が腹をくくらなければならない」と言ったのです。その上で私は、「ちゃんと3万円でできる」と申し上げたいと思います。アクセスのための回線を作る会社は、ちゃんと利益を出すことができます。なぜなら、まず年間3,900億円の維持費がゼロになります。もちろん「光」の維持費はかかりますが、光の維持費と新たに引く光の工事費を足しても、メタルの維持費よりも少なく済みます。そして「光」の工事費も、営業費も減少します。
ではすべての家庭に「光」が引かれるとどうなるのでしょうか?

たとえば田舎に住むおじいちゃんの家で考えてみます。おじいちゃんは電話だけでいいので、今まで使っていた電話機をそのまま使います。ただし家の壁のところまで「光」が来ているので、家の内側に電話機を使うためのターミナルアダプターを取り付けます。そこからWi-Fiを使った無線LANが使えますので、遊びに来た孫が持ってきた電子教科書が、そのまま使えるようになる。あるいは診察に来たお医者さんが持ってきた電子カルテがそのまま使える。つまりおじいちゃんは、今までどおりの電話代のまま、追加コストなしで21世紀の生活の一部を得ることができるようになるのです。

「光」にはほかにも、さまざまな利点があります。たとえばオンラインショッピング。あらゆるところに光が引かれると、大容量のデータを瞬時にやり取りできるようになるため、新鮮なみずみずしい野菜や、おいしそうな湯気を立てている団子を、動画でそのまま見ることができます。日本には世界でもっとも優れた商品の配送システムがありますから、すぐに商品が届きます。残念ながら日本にはさまざまな規制がありますが、成長を促進するために規制緩和をすれば、一気にオンライン店舗は増えていきます。

教育にも恩恵があります。まずクラウドコンピューティングに、今ある教科書の素材をすべて入れてしまい、教科書は紙から電子に100%置き換えます。そして1,800万人の学生すべてに、国から無料で電子教科書を配ります。その費用は儲けを考慮しなければ、1台2万円×1,800万人=3,600億円でできます。先ごろ話題になった「八ツ場ダム」の建設費が約4,600億円。ダムの建設をたった1つあきらめるだけで、日本のすべての学生に電子教科書がいきわたります。しかも3,600億円というのは初年度だけで、翌年以降は新小学1年生への支給と、新中学1年生への機種変更を考慮しても、年間400億円で済んでしまいます。

教科書と同じ端末を病院で利用すれば、電子カルテにもなります。日本中をすべて「光」でつなぎ、地域医療からあらゆる情報をクラウドコンピューティングに入れる。端末をすべての医師や看護士に無料で提供すれば、医療関係者はいつでも必要な情報を手に入れることができ、また患者本人も自らの情報を入手できます。本来医療情報は患者本人に帰属しているはずですから、たとえば一度どこかの病院でレントゲンを撮れば、別の病院に行っても、その情報をクラウドコンピューティングから引き出せばいい。こうしたことを活用していくと医療費は減り、誤診も減る。遠隔地の医者に、優れた医者がリアルタイムに情報提供をできれば、医師不足の緩和にもなります。今日本の歳出約90兆円に対して、税収は約40兆円。その90兆円の費用の中で、一番大きいのが医療費であり、5年後には47兆円になると言われていわれています。ところが医療情報をクラウド化し電子カルテにするだけで、医療費を三分の一に減らすことが可能となるのです。

20世紀の日本は、「電気の道」によって1,000万人の雇用が生まれました。21世紀は光回線で日本中すべてがつながり、すべての産業がつながります。農業も漁業も流通も金融も、すべての産業が「光」化する。そうすると、20世紀の「電気の道」がそうであったように、21世紀は「光の道」が新たな多くの雇用を生み出します。世界一の高速通信、世界最高品質のネットワークインフラを持つことで、豊かな国民生活を得ようじゃありませんか。もう一度日本を成長軌道に乗せようじゃありませんか。日本のためにすべての国民が目覚め、古いしがらみを取り払う。それは誰のためでもない、日本のため、自分たちのため。そして我々の子のため孫のため、腹をくくろうじゃありませんか。

明治維新のときには腹をくくった人たちがいました。断髪令、通信、鉄道、廃藩置県のような日本の社会を変えるものが、明治4年~5年ころに続々と起きました。新しい政権になったこの4年間で、新しい日本の社会のインフラを作り直すことができなかったら、日本の将来は暗いと思うのです。せっかく社会が、世の人々が、日本のあるべき姿について、悩み答えを求めている。この時に動かなかったら慢性病になって、立ち上がるという意味すら忘れてしまいます。過去20年間、日本のGDPは横ばいです。今年新卒で入ってきた学生は、生まれて2歳のときから、日本という国のGDPが成長することを体験してないわけです。これが当たり前の社会、当たり前の国民になってしまったら、いったいどうなってしまうのでしょうか。せめて、高度成長期を知っている我々が、子のため、孫のために立ち上がらなければいけません。

日本の明るい未来のために。
ありがとうございました。

(掲載日:2010年5月19日)