理念・ビジョン・戦略
孫 正義 ソフトバンクグループ代表挨拶
人類の進化のために
ASI(人工超知能)を実現
ソフトバンクグループにとって大事なのは、保有株式価値から純有利子負債を差し引いて算出される株主価値、つまりNAV(Net Asset Value)をいかに最大化するか、です。ではNAVを増大させるにはどうすればいいでしょうか。私は「進化と増殖」に尽きると考えています。「進化」とはビジネスモデルを進化させてほかにはないモノをつくること、「増殖」とはそれを営業力で売りまくるということです。振り返ってみると、1981年の創業から進化と増殖を繰り返してきました。チャレンジの連続で、多くの失敗もしてきましたが、それでも生き残り、株主価値を増やしてきたのです。
進化と増殖の重要性は人類の発展にも当てはまりますが、とりわけ重要なのは進化です。私が今とても興奮しているのは、ついに当社の使命が見えたからにほかなりません。その使命とは「人類の進化」です。人類の叡智の1万倍賢いASI(Artificial Super Intelligence:人工超知能)を実現させることでその使命を果たすのです。
人類20万年の歴史を振り返ると、他の動物とは異なり人間だけが道具を次々と発明して進化を遂げてきました。人類の進化の担い手は人間だったのです。中でもレオナルド・ダ・ヴィンチやアインシュタインのような天才たちが刺激し合って、人類の進化を牽引してきました。現在、名だたるテクノロジー企業がこぞってAGI(Artificial General Intelligence:汎用人工知能)の開発に取り組んでいます。AGIは人間のような汎用的な知能を持つAIで、学習や問題解決を自律的に行う能力を持つとされています。10年も経たずに実現し、人間に代わって人類の加速度的な進化を牽引していくでしょう。それでも、AGIは天才たちと同等レベルに過ぎません。AGIが人間の範疇に留まるのであれば、人々の生き方、社会のルールや仕組みが劇的に変わることはないでしょう。
しかし、それがASIとなると話はまったく違います。ASIはAGI同士が刺激し合って、進化をどんどん加速させていった結果生まれるもので、私は人類の叡智の1万倍賢いと考えています。人類の叡智を圧倒的に上回るASIが実現することで、これまでのすべての常識が変わる転換点を迎えようとしているのです。ASIはデジタルの世界に留まるものではありません。ASIに繋がったスマートロボットが人間の代わりに製造、物流、建設、家事などの、ありとあらゆる物理的な作業をこなすようになります。
もちろんASIの基盤テクノロジーを提供するのはアームです。しかし、アームがいかに優れていても単独でASIを実現することはできません。グループの総力を挙げて推進していきますが、われわれだけではなく、志を共有するパートナーたちと技術面でも資金面でも協力しながらゴールに向かっていきたいと思います。
「ソフトバンクグループは本業をコロコロ変える」とよく言われますが、本業を変えたことは一度もありません。創業来の経営理念である「情報革命で人々を幸せに」こそわれわれの本業であり、その実現のための手段を進化させてきたに過ぎません。テクノロジーの進化に伴って、手段は進化させていくべきなのです。新たな手段であるASIの実現を通じて、われわれの使命である人類の進化に貢献していきます。
ソフトバンクグループ代表 孫 正義